『冬の妖精』
北のほうでは──
冷たい雪と、厳しい風の季節。
もうすぐユキたちの街も
こごえる北風が吹き降ろし
骨までしみいる本当の寒さを迎える頃。
そうしたら、女の子たちはお気に入りのコートで身を守るの。
靴下も冬用。
赤でも白くても
花柄でもいいんだよ。
足元から今の季節に備えます。
お布団も山のようになって
いつも頂点を目指して力いっぱいのマリーちゃんが
胸を張って背筋を伸ばす高い場所。
山登りで汗ばんだ手を差し出して
小さい子たちを膝の上に置いて
眺める景色。
はしゃいで、よろこんで
今日は崩れないで高い場所を楽しむことができそうかしら?
ゆれる掛け布団が転がって敷布団の柔らかな海へ
きゃあきゃあ笑いながら飛び込んでいくまで
ユキは見守って
気をつけてね、と小さく声をかけているだけ。
それ以上は何もできないおみそさん。
新しく作ってもらったばかりの暖かで大きな雪だるまの上着ほど
立派ではなく
かっこよくもなく。
気の小さいままでした。
さくらちゃんはかけぶとんをごろごろ
はしっこから飛び出したらぴょんぴょん
窓のほうへ行って見上げるの。
クリスマスまでもうあと少しの冬。
愛が世界中に降り注ぎ
目に見えない、音も聞こえないのに伝わって
どこもかしこも暖かな優しさで包むのも
ユキがひとり目を閉じて重ねるほんの少しの時間のあと。
あいあい
あーいって
みんなで歌っている。
ユキの知ってる歌なのかな?
耳に届かないはずの形のない愛。
たまにはこうしてかわいい声で聞こえるのもいいものですよね。
年に一度──
それとも、意外と毎日。
もしかしたら
星の光やおもしろい飾り、
暖かな香りと、とっておきのお皿
みんなの楽しそうなお顔が並んで
色が着いて家の中を包み込むようになるのももうちょっと。
ユキにしか見せない特別な笑顔の氷柱お姉ちゃんも
明るかったりいたずらっぽくなって
それでね、ユキと手をつないでくれて
みんなの集まるところへゆっくり。
でも、どきどき急いでしまいそうな気持ちで歩いていくんです。
お空から降ってきて積もる愛は
とってもうれしい愛なのに
冷たいの?
もしかしたら不思議と暖かい?
さくらちゃんが真ん中になってみんなと真剣に話し合っている。
難しいところですよね。
手に取るとひんやり
びっくりした声が出そうなのに
きれいな白が広がって、見慣れた景色を染めていくのだもの。
もう少し暖かくて
手触りもできればふんわり気持ちよくて
実はこっそり甘かったりして
夏くらいになったら虹の色に変わったりしながら
積もってくれたらよかったのに
実際は、服を着ても隙間から入ってきてしまういじわるな風だもんね。
お外に出たらいけなくなるし──
もう元気になったつもりで、平気なふりをしていたら
とっても苦しいせきが出てしまう。
お兄ちゃんも、強いのは知っているけれど
冬の寒さは油断ができないって
氷柱お姉ちゃんがいつも怒るの。
お兄ちゃんもよく言われませんか?
いつも心配してくれる氷柱お姉ちゃんだから
お兄ちゃんのこと
気にしてばっかりいるのかもしれないですね。
ユキのところに冬になって降りてくる愛情は
あさがたは触るとひえひえしちゃう
明かりの灯る枕もとの、スズランの形のランプ。
手鏡になる、うさぎのコンパクト。
ちょっとずっしり重いペン。
などが、冷たいもの。
日記の表紙も
最初に開くときは、渡ってきた廊下の温度が染み込んで冷たいこともあるかしら。
麗お姉ちゃんからは両手にしっかり大事に届けられたとき、
夕凪お姉ちゃんからはぶんぶん振り回されて元気と一緒にユキの手元にやって来たとき。
いろいろあっても
やがてユキの手の中で暖かく変わる日記の温度。
見えるようになる愛と、聞こえるようにしたい好きな気持ちと
同じくらいに伝わるでしょうか。
ユキの体温がうつりこむと
どれくらいになるのかな。
今日は、うきうき飛んでいくみたい?
ひらひら舞うのかも?
一生懸命込めたかった気持ちと
うまく伝わらないいっぱいの心の中を
せめて少しは暖かく思ってもらえたら。
こんな寒い時期には、そんなふうにたまに無謀に
お兄ちゃんにとても喜んでもらいたいと願っているんです。