氷柱

『ジングルベルの罠』
まだ一ヶ月も先だというのに
世の中は変わり者ばっかり。
理性的に考えれば
ケーキの予約とサンタさんへの手紙だけ
用意しておいたら
あとはすることもないじゃない。
さみしさのせいで
余計に寒さが身に染みるから
今だけでも彼氏が欲しいと
ほぼ女子校といっていいわが校のクラスメートは
できもしないとわかっていて無茶を言う。
だいたい彼氏ってそんな暖房器具みたいな扱いで
作るものではないでしょう。
体が冷えるのはよくないけれど
せっかく冬が来てくれたんだから
冷静になるために頭を冷やす方法を考えたらいいんだわ。
クリスマスが近づいているからって
街中が浮かれたお祭りムード。
不景気と叫ばれて長い近年でもまるで変わらぬ騒ぎだし
消費の落ち込みにストップをかけようと
おこづかいの少ない中学生たちも問題意識を持って臨んでいる、と
そういう感心な話なの。
そうとでも思わないと──
とてもあんなテンションにはついていけないわっ!
クリスマスという行事は
決して大脳皮質の活動力を低下させ
楽しいからを免罪符にやりたい放題をするのではなく
ただ、普段と比べて
記念日だと言うことがわかる少しだけいい食事とケーキで
祝福された日が過ごせることを家族と揃ってお祝いし
敬虔な歌に耳を傾けながら
清らかな気持ちで新たな年へ向かう
神様の子として等しく祝福される
罪を許される聖なる時なのだから
彼氏彼女だの言い出す生臭い下界の業にとらわれ
あえて罪を重ねるものに
心安らかなクリスマスの静けさは訪れない──
人はクリスマスの愛を知るにはまだ子供なんだわ。
もっと人類はしっかりしなくちゃ!
と、鈴の音にも負けず気を張っていないといけない
つらい季節。
なんだかどうも──
彼氏に作ってあげられるようにと不純な動機で
めきめきとお料理の腕を上げていく友人や
クリスマスメニューの高い頂を目指し
最初は料理の基本のきから学んで
お兄ちゃんのためにがんばっている妹たちを見ていると
間違っているのは果たしてどちらなのか
複雑な気分になるのが面倒くさいところよ。
ところで煮物がおいしい季節になってきたわ……
たまたま男の人によく効くという肉じゃがなどの煮物が
我が家の食卓に並ぶことが増えたのは
ただの偶然だと私は考えているわ。
何も特別な理由などない──確かな事実よ。
私、自分の頭脳を信頼しているの。
偶然の他に答えを導き出さないのならばそれが正しいんだわ。