『憧憬』
クリスマスは心を白く、清らかに染める。
まるでこの日だけは
世界が滅びの定めを持つことを忘れてしまいそうな
そんな気持ちにさせる。
誰も逆らうことのできない歓喜の記憶を後に
クリスマスは過ぎ去った。
また来年のお楽しみを待つならば
今日は一番遠い日ということになり
年越しを前にどうしても大掃除に向き合わねばならない。
もはや何も言い訳はできない。
例え掃除が遅々として進まなくても
来年に向かってゆっくりでも歩いていかなければいけないのだ。
発掘される読みかけの本を前に
誘惑と激しく戦っていく日々がついに来た。
それにしてもどうして
この部屋には本が多いのだろう?
うん、もちろん私が集めたんだが。
どの本を見つめてもいっさい例外なく
出会った瞬間の心を蕩かすときめきが蘇り
財布と相談した記憶も蘇り
帰りの寄り道を我慢したあの時の決意もまざまざと思い出され
甘く苦い懐かしさで
指先は自然に表紙をめくる。
いつでも──
知識と共にあるとはそういうことだ。
違うと言われても私の場合はこうなんだとしか言えない。
まったく増えたものだな。
部屋の収容量を省みないにも
もう少し考えはしなかったのだろうか。
うーん──確かに考えてはいなかった。
そしてこれからも考慮することはないような気がする。
大変なものだぞ。
こっちの本には神秘の宇宙。
それを手にとると次に出てくる広大な宇宙。
背伸びをすると目に入る果てしない宇宙。
宇宙、
宇宙、
食べ歩き、
また宇宙。
どこまで行っても宇宙。
銀河にまつわる無限の物語。
たどりつくことのない最果てを求める言葉たち──
無数の知識の中には
今となっては疑わしいものもある。
否定されてもうすぐ忘れられる定めの知識もここには眠っている。
掘り起こして眺めると
そうした過去でさえ
人類が大きすぎる相手に無謀な戦いを挑み続けた軌跡のようで
やがて塵に帰るちっぽけなこの私の胸の中を
この瞬間、確かに熱くする。
進み続けて
いくつかは望み叶わず、倒れたものたちの記録。
その壮絶な道のりを辿り
今も進み続けるものたちの形ある一歩。
先に待ち受ける結末を知らず
ただ熱意に動かされ続けた。
ひたすらに求め続けた──
それしかできなかった人間の
終末までの出来事だ。
まるで永遠に片付くなど見えない
私の大掃除のようにどこへ向かうかもわからないお話。
今、読まなければいけない気持ちになるのは
そういう共感が理由であって
たぶん逃避ではないのだろう。
いや逃避でもいいんだが
それを言ったら怒られるから
その、つまり、だから──
何事も道のりは長く
喜びも迷いも、おそらく立ち止まることも
宇宙の無限に立ち向かう私たちには必要で
これはちょっと休憩を挟んでいるというわけだ。