観月

『きのうの続き』
ずっと昔から
われわれの生きる世は
なにもかもが移ろい
とどまることはない。
夜に浮かぶ月の姿も日々違い
夕凪姉じゃも見違えるほどりっぱなおなかになって
廊下を遊んでいたかわいい虫は
今日になって、もう姿を見せない。
どこか落ち着く場所にたどりついたのであろう。
そぼ降る冷たい雨も
もうおそらくは
見渡す景色を慣れ親しんだ銀の雪化粧に染めることもない。
みんなで暖かい飲み物を用意して
そわそわ次の変化を待つのみ。
いつのまにか別の形を見せはじめた
ちびすけたちの今日。
こうしてみんなで
新しい過ごし方を探りながら
またこれまでの何もかもが通用しない別の日へ
頼れる人の手を取り進んでいく。
どんな世も同じように生きていける
強い人はあまり多くないからな。
わらわも自分ひとりではできることもあまりなかろうと
遠慮なく
甘えられる心構えを作ろうとしておる。
こごえる肌寒さで
ここしばらくの陽気が嘘のように思えても
それでもやっぱり
みんなで乗り越えてきた冬のあと。
それぞれが自然な様子で
上着を取り出しては
着てみる前に一応
おかしくないか、とか
兄じゃの前でくるっと回って見せるときの
ふわりと踊る影も
何度も見てきたように軽い足取り。
重ね着を次々とかざす陽気なしぐさは
この先しばらくはおあずけになるのだな。
兄じゃも大事に記憶にとどめておくとよいだろう。
また時がめぐり
繰り返すときに
今度は春風姉じゃがふくれないうちに
着替えを選んであげられるようになるかもしれないし
兄じゃが少しおだてるのが上手になっても
やはり春風姉じゃはもっときれいな姿を見せたくて
終わりにしようとしたところであまり聞いてくれないかもしれない。
全ては、今日を思い出し続けていく
どこか似ている景色もある積み重ね。
わらわはもう
これまでみたいに丸まっていることができないで
少しの辛抱をすれば
すぐに穏やかな春が来ると信じ
兄じゃにわがままを言って大きな上着の中に入れてもらう
新しい計画を立ててはじめた。
それともこれは
前に似たような季節が来たときにも
繰り返したことだっただろうか?
そんな気もする。
兄じゃ、ある日の突然の寒さに
小さい観月がびっくりして、
凍えて丸まりそうになっている。
お願いをひとつ
簡単なことだけを聞いてもらえぬか?
ちょっとのあいだの辛抱じゃ。