夕凪

ダッシュ
ああ
おいしいぃー
おいしい!
おかしは
おいしいね
お兄ちゃん。
どれだけあっても
困らないね。
あるだけ積み上げて
お庭も街も埋め尽くす
大きな山になっても
誰も文句を言わない。
そういうものだよね!
おかしって!
夕凪、大きくなったら
お菓子屋さんになるんだー。
お店の中にどっさり。
少しつまみ食いしても
減らない減らない
いつまで経ってもお菓子の量は減らないよ。
だって多すぎる。
いくらなんでも
お菓子屋さんのおかしは
限度とかそんなものはどこかに置いてきた。
きっとお客さんがたくさんやって来るから
みんながおやつで食べるぶんの
普通の量なんて言ってられないんだよね!
お客さんはおかしが大好きだし。
お客さんのお兄ちゃんも
小学生の妹もおかしには目がないし!
氷柱お姉ちゃんや星花ちゃんは
夕凪が店番をして食べたらお店のおかしがなくなっちゃうって言うけど
本当は夕凪は
もう知っているの。
お菓子の工場はいつもたくましくはたらいているということと
日本の科学技術の最先端は
世界を相手にしても戦っていけるということを!
テレビで見た。
だから夕凪が大人になる時には
さらに優れた機械が集まる工場が
みんなの大好きなおかしを
わんさか作って止まらないに決まっているんだよ。
よくテレビばっかり見ていてはいけませんって怒られても
ほらー!
テレビのおかげで知識が増えているでしょ?
夕凪の将来はまちがいなく
誰もがひとくち食べたらうれしい
そんなおかしに囲まれて
朝晩いつもおかしの山を見上げ
さらに星まで届くおかしの塔も積み上げ
惑星の一つや二つ、
そのうち宇宙の果てまで
おかしでいっぱいにしてしまう!
広い宇宙、
たまにはそれくらいのことがあるものです。
みたいな、そんな感じの話を
霙お姉ちゃんがね、
きのうお部屋のクモを追い払ったお礼に
お菓子をくれたときに教えてくれた。
あってもいいよね。
どんなことも。
宇宙だし、って。
それにね。
よく言うでしょ。
かけっこのとき、
ゴールに飛び込むときは
ゴールテープの少し先まで走り抜けるつもりで胸を張って
スパートをかけていくの。
夢を見る時だって
少しくらいその先を見て
ちょっと大げさになりそうでも
もっと大きな夢を思い描いたら
少し早くたどりつけるかなあって
そんな気もしてこない?
夢を叶えてお菓子屋さんになるのは
ぜんぜんゴールじゃなくて
そこからが楽しみなところなんだけど。
今の夕凪は
世界一の技術を結集したものすごさで
誰でもみんながおどろく立派な工場から届く
おかしを並べるお店の
看板娘になるまでの
その道のりを
もぐもぐ考えているんです。
でもね
びっくりしたひょうしに
霙お姉ちゃんが木の上に隠れようとするほど
大きなクモが現れたときに
助けてあげる勇敢な便利屋になる未来も
捨てがたい。
うーん。
こういうときはマホウのでばん。
パラレルワールドをつくって
あっちの世界の夕凪は
お菓子屋さんをして
お兄ちゃんと楽しく過ごし
そっちの世界の夕凪は
便利屋さんをして
お兄ちゃんと仲良く過ごし
こっちの世界の夕凪は
気ままにほうきで飛び回り
お兄ちゃんのいる家に帰っていく。
ただいまーって。
でも、お部屋のドアを
なるべくテープでふさいで部屋の中に閉じ込めようとしても
すきまを見つけて追いかけてくる人懐っこいクモは
ガッツとあいきょうがある感じ。
こわいけど
にくめないやつ。
やっつけたふりをして
そのへんに放り出したって明かしたら
ひょっとして霙お姉ちゃんは怒ってしまうかなあ?
そうなっても返さなくてすむように
おかしは早めに食べてしまうのが
今まさにこのとき
夕凪の目の前にあるゴール。
お兄ちゃん!
まだまだ
あるよ。
夕凪とお兄ちゃんと
さっきわけてあげたちびっ子たちや氷柱お姉ちゃんたちとで
食べても食べてもなくならない。
まだ大きくなって夢をかなえたわけでもないのに、おかしいねえ?
たぶん
広い宇宙の片隅ではよくあることだよね。
しあわせだねえ!