『まゆげ』
いっぱい笑っているときも
微妙にテンションが上がらなくても
なんとなく気持ちを伝えてくれるのは
まゆげ。
まじめになったら
むむむ。
楽しい気分で
きらきら。
わかってしまうのって
みーんなまゆげのしわざでしょう。
照れくさくてうつむいてしまっても
本当は嫌じゃないって
ばれてしまうでしょうか。
本当はいつも気になっているって
面と向かっては言えないと言うことを。
氷柱ちゃんはいつだってお兄ちゃんには辛辣で
女の子の気持ちなんて全然わかってない!
とか
一緒にお風呂に入るのも家族だから仕方なくて
背中を洗うのも別に意味なんてない!
などといったことを蛍に伝えたくてたまらないようなのですけど
あまりにも蛍は気持ちを丸出しにしているから
たまには伝わってしまうこともあるかもしれないし
お風呂にみんなではいるのだって楽しいから浮かれるのもよくあること。
ですよね?
蛍のぽっと赤くなる頬が
伝えている?
もじもじ落ち着かない指先が語るかもしれない。
だけど、不思議だなーと
よくあるのかなんなのかまったくわからないようすで蛍を悩ませるのは
立夏ちゃんが晴れやかで
激しい音がするような雨の日でも
あれ?
まぶしいな?
切れていた電球が一瞬灯ったわけでもないはずだな?
なんてぱっと明るくなる
とびでる声。
何の心配もいらないと開いたまゆげ。
その横では、きんきんするって耳をおさえるふりをして
暗い天気にどよーん
じんじん染みる寒さが戻ってしまって心配そう
居間のティッシュがもうないわと、のそのそめんどうくさそうに押入れを探したり
みかんまで! などと誰も何も言わないうちから率先して
残りひとつふたつのみかんのかごを抱えて大またでどしどしみかん箱のところまで往復し
これだから雨の日はー、なんて独り言をこぼす氷柱ちゃんの
むずかしくしわの寄った細いまゆげでも
二人ともずいぶんちがう表情なのに
なかなか出られないでのんびりしていたらこたつで眠ってしまったときの
天使みたいに愛らしい寝顔はやっぱり年も近くてよく似ていて──
というかよみがえる記憶の中の子供のときからあんまり変わらないから年は関係ないか?
静かな寝息をそろえる姉妹が並ぶと
ふだんは全然違うように見える顔のつくりだってびっくりするほど家族っぽいのだから
ぜんぜん違うふうに踊って
動きまくりのまゆげがしかけたいたずらなのかしら?
ぱーっと咲こうが
ぎゅぎゅーとまじめに引き締まっていようとも
ねごとでむにゃむにゃ
だいすき……とつぶやく
お兄ちゃんの夢を見ているかもしれない子供たち。
これは蛍の想像!
ということにしておきます。
残念ながらよく聞き取れなかったことだし。
うーん、たぶんあんまりまゆげの形が変わらない蛍も
いねむりをしたら、あわてたり驚いたりしているそそっかしさも全然なくて
あんなふうに幼い顔でよだれを垂らしながら
一心にひたすら考えていることがわかってしまうのでしょうか。
恥ずかしくて隠そうとしている何もかも
あばれるまゆげや
眠ったときくらいは素直になるお顔が
そのまま心の内を映したみたいに
まるごとそのまんまなのかもしれないね。
もともと蛍は隠し事をしても
複雑すぎてだめだとかなり早めにあきらめるわかりやすい子では
ないのでしょうか?
そうかー、隠しきれないのか。
すると今日も
お兄ちゃんとお話したくてもじもじしていると
もう気持ちを全部見抜かれてしまって
なんとなく蛍もそんな気がするし
ますます恥ずかしくなってはにかむわけですね。
いつまでも覚悟を決めないで
煮え切らないままにやにや。
面白い子ですね!
どんどんあがって困ったみたいに話す言葉が何にも思いつかなくなってしまっても
しかたないって許してね。