綿雪

『はじまり』
ユキです。
お兄ちゃんは、今年の始まりのことを覚えている?
羽根突きで負けたときに顔に描かれてしまったらくがきだとか
かるた遊びやすごろくだとか
書初めに書いた今年の目標。
あのとき願ったこと、
なんとなく
こんな年にできたらいいなあ、
叶うかな、
叶わないかな、
ぼんやりと考えていたいろいろなこと。
どれだけ覚えていて
いったいいくつが
ほんとうになったか。
ユキが覚えていることは
今年いちねん
なるべく。
できるだけ。
でも、もしも大きなことを言っていいなら
一年を健康に過ごして
元気いっぱいで、たくさんの経験をして
また次の年に
同じ場所で、みんなとまた
そんなふうに願うことができたら──
と。
いくつかは叶った願いで
あといくつかは──
学校をお休みする日もありました。
暑い夏の日も
冬が来ても
ずっと元気で、みんなと楽しくいられると思って
でも、どうしても
かなわないこともある。
そんなふうに過ごした一年がもうすぐついに
終わろうとしています。
一年の最初。
年のはじめにね。
ユキが今年は
あのねえ……
風邪を引かないで健康でいられたらいいな!
もじもじしながら言ってみたとき
それはとても大切なことで
何をするにも
体が丈夫でいられたらうまくいきそう。
よーし
私の目標もそれにしようっと!
同じものを目指す
変わらない目標を持つもの同士。
だから競争ね。
どちらがずっと元気でいて
長い一年が終わるとき
自慢できるのは
どっちだろうな。
そんなふうに
ユキの隣で笑っていた負けず嫌いは
もちろん
氷柱お姉ちゃん。
今年はユキは
あまり重い風邪で体調を崩すことはありませんでした。
やっぱり──
競い合うライバルがいたから
負けたくなかったからかな。
体が勝手に
強くなりたいと思ったのかも。
ユキちゃん
がんばってね!
みたいに。
なんて。
だけど、ときどき学校を休むから
もう勝負になっていないのかな、
考えるときもありました。
一年の終わりに
くらべたら
はずかしいかな。
でも、氷柱お姉ちゃんももしかしたら
がんばったって言ってくれるかもしれない。
そんなふうに
氷柱お姉ちゃんに思ってほしい
負けたりしない──
ふいに頭に浮かんだり
やがて忘れたりしながら
今年一年を支えた力。
氷柱お姉ちゃんが
ぜったい勝つんだな、
ユキももうすっかり決めていたのに
ようやくここまできて
ついうっかり
疲れすぎるまでがんばってしまうんだから
氷柱お姉ちゃんも
しかたがないお姉ちゃんですね。
あの……
ユキはよく知らないんだけど
風邪になった人が
みんなを心配させたくないなって
悲しく思うのと。
その隣で
風邪が治るのを待って
いくらお見舞いの言葉をかけて
手を洗ってお手伝いでおかゆのお皿の用意をしてみても
待つしかできないときの
どちらが悲しいのか
だんだんわからなくなってきたの。
すぐ治る風邪を待っているだけなのにね。
蛍お姉ちゃんが話してくれた様子だと
もうだいぶよくなってきたみたいだけど
風邪は治りかけがかんじん!
報告を聞いた海晴お姉ちゃんが
決めてしまったの。
いちばんのおくすりを
風邪の治りかけに持って行きましょう。
だから明日は
お兄ちゃんが学校からまっすぐ帰ってきて
これで風邪がおしまいになるように
やさしく最後まで
夜になってすっかり元気になると眠りにつくまで
つきっきりで看病をしてあげてください。
と。
なんと
いちばんのおくすりは
お兄ちゃんだったんだあ……
言われるまで思いつかなかったけれど
そんな気がするの!
もしも時間があったら
どうかかわりに伝えてください。
ユキが心配していたと。
それから
勝負は最後までわからないと。
戻ってきてくれるのがまちきれないから
お兄ちゃんに頼んだんだと
あと、
それから……
他にも言いたいことはあるけれど
あとは
会ってからです、
ということを。
でも、もしも
ひさしぶりに会ってお顔を見たら
もう何もいえなくなるかもしれないと
そんなことは──
それだけは
お兄ちゃんにだけ言うんだから
氷柱お姉ちゃんに伝えてしまったらだめですよ。