『マジカルプリンセス』
もしも小雨が
いま、この瞬間から
スポットライトを浴びて輝くアイドルみたいに
きらきら光をまとって
なんでもできる魔法使いに変わるなら
ねがうことは
いったい、いくつあるだろう?
ひとつひとつ、指をたたんで
数えはじめたら
まずいちばんは
おつかいに出かけて
すぐに、こぜにを落としたら
見つからないまま、一緒に来てくれた麗ちゃんや
お店の人に声をかけてもらって
申し訳なくて、待たせてしまうことになっても
あわてなくて大丈夫だと言ってもらえるんだから
すぐにまわりがぼやけて見えなくなったりしないように
悲しい涙を一瞬で振り払う魔法を
身につけたい、ということ。
それからふたつめの
ひとさしゆびに願う魔法は
転んで泣いてしまったさくらちゃんや、
幼稚園で虫を見せてくる男子に追いかけられて
おうちに帰ってきてもまだ泣いていたときに
かわいそうに思ったら
怖い思いをしたのが自分みたいに
すぐに泣き出して、
さくらちゃんとふたりでさめざめうつむいて声を漏らしていたら
あわてて飛んでくるお姉ちゃんたちに
小雨は何も悲しいはずはなかったのに
誤解で迷惑をかけてしまわないよう、
すぐに涙を止めて
しおれてうつむいた泣き顔だってすぐに
ひまわりみたいにして
笑ってまぶしいお日様を目指さなくちゃ、
小雨のすぐ近くには
いつも明るくて暖かいお兄ちゃんがいてくれるから
悲しくて涙を流す必要なんて何もないはずだもの、
と思っても
落ち葉の季節に、葉っぱが風に舞っていたら
やっぱり小雨も
夏が終わって、
そこらじゅうパワーいっぱいの暑さも見つからないで
誤解で前向きに変わっていけるふりがもうできなくなったら
ぽろぽろ散ってしまう葉がお似合いなのかな、
その前に夏の強い光は
小雨にはちょっと強すぎる気がして
落ち着ける秋を待っていたはずなのに
どうしてこんなに
悲しい気持ちで次の季節を迎えているのか
落ち葉をはきながら
ため息をこぼして
このままほうきとちりとりで
小雨のじめじめもまとめてしまえたらいいのに、
ハロウィンの仮装の希望を聞いてもらって
こんな話をしていると
せっかく魔法が使えるなら、もっとすごいこともできるよ!?
って、あきれられてしまって
そうなんだ、小雨には魔法使いは似合わないかな、
みるみる小さくなってしまうんです。
からりとしたさわやかな秋に
ここだけ溶けてしまうみじめななめくじ気分で
いけないの。
でも、夕凪ちゃんたちが言うみたいに
一日だけすごい魔法使いになって
世界を思い通りに変える夢は
どうしたって小雨には思いつかないんです。
かわいいお姫様になったり
お空からお菓子が降るように願ったり
元気いっぱいになってビルを登りだしたり
ほんの短い時間だけでも
お兄ちゃんを自分だけでひとりじめしたり
変わらない明日を祈ったり
実験器具に囲まれた天才科学者になって
あらゆる疑問を解き明かしたり
とてもできない!
もうそんなこと
小雨が考えるだけで大それているようで
とても真似ができません。
すてきで華やかで
元気な家族がこんなにいるって
いつもなら、小雨の自慢のはずなのに
どうして少しだけ
まぶしすぎるみんなの中にいるのが、つらいのかな。
なんでもできる魔法使い。
今すぐに変われる小雨の楽しい家族たち。
明日に待っている
楽しいハロウィンパーティに、きっと足を引っ張ってしまうけど
ひっそり隅っこで
盛り上がっているみんなのうれしさを
小さじいっぱいぶんだけ
おすそわけしてもらうつもりでいます。
自分が変われなくても
でも、もう充分。
おうちでいちばん夢のない魔法使いは
もしも少しの間、笑顔でいられたら
いつも泣いてばかりの子が
ちょっとだけ楽しさを分けてあげられたようで
もう、かなえたい願いの全部。
一人になったときに思い出して流す涙が
いくつあったって
もしも小雨のうれしい顔を見ている誰かと
楽しいよ、
幸せだよって
言葉やしぐさや
触れる温度で
伝え合えたなら。
それはもう
小雨にとっては
一生をかけてもかなえたい望み
そのものなんです。
小さい夢だと笑われたって
どうしても、他にない。
今はあまりうまく行く気がしない
小雨が探している
たぶんいちばんの魔法は
少しだけ、泣かないでいられて
うれしいと思えたときに
好きな人を
ほっと安心させてあげられる
そんなひとときを
小雨の力ではすぐに過ぎ去ってしまう短い時間でもいいから
もしも、一瞬だけでも小雨がすこし
強くなれたら。
やっぱり、
魔法を使ってかなえるには
小さな願いで、おかしいでしょうか?
たぶん、これでも小雨のせいいっぱいなんです。
恥ずかしいけど
言ってしまいました。
これから長い時間が合ったら、いつかかなうかな?
どうしても触れることができなくたって
かすめるみたいにそばを通り過ぎるだけなら、
ずっと願っていれば
遠い未来にわずかでも
小雨はうれしい魔法を使えるようになるでしょうか?
たぶん、明日は
そんなにすぐにはかなわないので
小雨がみんなのはしっこで、
一人前に魔女の帽子をかぶって気取っていても
笑わないでくださいね。