『まだ無理』
もしもひとつだけ
願いがかなうなら。
あ、やっぱり
ひとつだけに限らないで
祈りがとどいて、
ばっちりとどいて、
クリスマスの朝、靴下の中が
ぎゅうぎゅう詰まっているのに
体をくねらせてモゾモゾしながら、すきまを作って顔を出そうとした
サンタさんへの手紙に書いたのも
子供っぽくて恥ずかしい気がしていた秘密も
全部見抜かれてそのまま
まるごと闇鍋袋詰めが枕元に揺れている
ロマンティックなんだかそうでもないのかよくわからない
とにかくためらいなく
なんでもかんでも
悪い子だなんて反省もせず
限界もなく、遠慮もしないまるきり子供のままの願いで
宇宙がすみからすみまで丸ごとほしいなら
ふつうに蛍のひろげた手のひらの上に、はいどうぞって乗せてもらえるし
この宇宙のどこにもないと思っていたすてきな何かだって、
揺れる心のはしっこに
もしもあったらと
そっと手ごたえもなくかすめる
形のないあいまいな
そよ風ほども感じない
気のせいみたいな一瞬の気配であっても
もう、ちゃんと知られてしまって
初雪の兆しを待っている私たちに届くみたいに
チャイムを押して玄関から
ただいま!
と、上がってくるんです。
お客さんみたいにチャイムでお知らせしてくれるのに、
ただいまだなんて
お兄ちゃんも、初めて私たちの家に来たときは緊張していたのかしら?
どう考えてもかなうわけがない願いを、神様に聞き届けてもらえた
あのクリスマスの夜から
何度も冬はくりかえし。
心の中にまだ知らなかった願いがぴょこぴょこめばえたら
意識しないうちにいつもかなえてもらえた
クリスマスでもなく七夕でなくても
お盆やお正月は関係あるのかどさくさなのか
とにかくもう毎日、いったい何の日だったか思い出せなくなるまで
あわてていても、落ち着いた気持ちでも、夢中で止まらなくても
魔法使いが杖を振るしぐさだって間に合わないくらい、きらきらがあふれて
ほうきを手にして見渡すあたりに、エプロンを締めおたまを構えてにっこり向き合う場所に
どこにでも、ふと目を上げて知らない魔法がかかっているのを見つけたみたいに
蛍の知っている限りの範囲をすきまなく包み込んで
お兄ちゃんがいる私たちの毎日が
めまぐるしく移り変わりながら
よくわからないうちに流されていたのか
それとも見逃さないように真剣に目を見開いているうちに
きっと忘れないつもりで思い出を焼き付けていたのか
もしかしたら、忘れられないと最初から知っていて
みんなしまっておくつもりで胸の扉を広げて受け入れようとしていたのか
いっぱいもらった贈り物は
全部、ひとつ残らず叶った
蛍の心からあふれていた願いのような気がして
もしもこれから蛍がはっきり気持ちを込めて伝える言葉も
またたきしたら、魔法みたいにあらわれたお兄ちゃんがそっと叶えていくなら
蛍はもうすぐ訪れる不思議なハロウィンの夜に、何に変わろうと願うんだろう?
考えていました。
でもこれって
もうだいぶハロウィン本来の形が残っていない気もするけど
いいんです。
今年はお試しで
おうちの中だけの楽しみだから。
うまくいったらもうけもの。
と、いうことにしておいて
変わり果てたハロウィンをごまかして
何かいいことがあったらと、それだけを夢に見て
待っている夜なの。
思いがけない楽しいことがある夜なのかも?
根拠のない予感に、胸の中は天使の落とした羽のように揺れながら
ひとときもじっとしてくれないで、うずうず、もぞもぞ。
そわそわ落ち着かない気持ちで
あったらいいな、とつぶやく
きっと想像している時間が一番楽しいと、お姉ちゃんたちに言われそうな
弾んで夢を見る
ふくらんだあたたかな
人に言えない少し恥ずかしい童心なんです。
実は最初は
お兄ちゃんのところにお嫁に行くかもしれない、
まさかまさかのいつのまにか
来年になったら蛍も結婚していい年齢だから
もしも毎日少しづつ
これでも大人っぽくなっているところがあったら
お兄ちゃんが見つけてくれるかも、
と妄想していたら
予算の壁に阻まれたこともありました。
でも考え直したら
本当になりたい将来って
一日だけの花嫁さんではなくて
誓い合った後に、本当にずっと毎日を過ごす人の隣で
何事も変わり続けるこれからを
忘れないでみんなしまっておきながら
そのうちいつか、取り出して手のひらの上で眺めたとき
全部が、かなった蛍の夢なんだなと
ひとつひとつ、
また特別な箱の中に戻して
弾む気持ちで目印のリボンをかけて、ちょっとだけメモを残しておけたら
また将来、忘れた頃に見つけ出して胸が躍る予感。
それに、どんどん増える大切なものを残しておく場所を作ろうと
またあわあわしてしまうちょっと情けない予感まで
ぎゅっとたっぷり密度を増やして
どんどん広がっていく
蛍の想像する、もしもそうなったらなんだか素敵な未来。
ちょっと変わっているかもしれないハロウィンには
どうなってしまうのかな?
答えは蛍の知らないうちに
もう出ているのだとわかっているから
今は目の前にまだ形になっていなくて
なかなか見つからないようでも。
無理かもしれなくても
ゆっくり探している、
今日はなんだかそんな気がしています。