真璃

大根おろしの秘密』
キッチンに立つ女の子は
今日も忙しい。
そして──
新しい歌を覚えた
魔法使いのように
何かいいものを生み出せそうな期待で
胸がいっぱい。
見て!
これは大根。
言わずと知れた
冬の食卓を支える頼もしい食材。
雪のように白いその肌が
キッチンに姿を現すだけで──
歓喜の声は点まで届き、
素敵なことが始まりそうな予感が広がるわ。
フェルゼンも
知っての通りね!
道具とお皿とお鍋がいっぱいのキッチンを見渡せば、
これはおろし金。
そしてこれは
魔法でできた贈り物のように
白く高く、見上げるほどに降り積もった大根おろし
ちょっぴりツンとくる香りが
食欲を刺激するわ。
そしてテーブルの前に堂々と胸を張る、
ああ、このレディ!
この一仕事終えた
すばらしい汗を浮かべるのは
フェルゼンの愛しい
マリーではないか!
お手伝いの当番なのよ。
そしてまだ
見ることもない
今夜のメニューたち──
そっと耳を澄ましたとき、
かすかに聞こえる産声が
マリーにはわかる──
この小さな鐘の音が
やがてはポン酢と運命的に出会い
お肉をさっぱりといただけるのかもしれない。
野菜たっぷりの温まる鍋物
優雅な足取りで加わるのだとしたら──
それはおだしの優しさが効いているに違いない。
何もかも未知数の
可能性のかたまり。
だけどここに確実に存在する
あらゆる未来の芽生え──
ねえ、マリーは今日ずいぶんがんばったんじゃない?
フェルゼンもきっと誇りに思ってくれるわ。
前世から結ばれた運命の絆は
今夜、いつもよりもお腹を空かせて待っているのだから──