『眠りの夜』
朝になって台風の影響が伝わり始め
いつもなら少し足を延ばした先の見慣れた景色や
電車の窓から眺める街並み、
旅行の予定を立てるときに麗のプレゼンで記憶に残っている場所などが
まるで知らない場所を見るように
テレビの向こうに映ると
私たちもほんのわずかな条件で危険を逃れただけで
いつ恐ろしい目にあってもおかしくなかった台風の大きさを
まざまざと思い知らされる。
地球規模の自然の働きが腹に持つ得体の知れなさは
人の運命の一瞬先を包む闇にも似て
私たちの力の弱さを突き付けるけれど
それでも今も必死で戦い続けて
当たり前の日常を取り戻すために力を尽くす人がいることを考えると
できることを考えるし
本当に大事な
守るべきものを思う。
見えない闇に向き合うために
歴史を学び
経験を積んでいこうとする意志と
そのための知恵が
私たちにはあるのだろう、
そうだといいな。
家の周りは無事だったようで
雨漏りも風の影響もないようだ。
さんざんに散らばった落ち葉を片付ける気長な作業の先に
いつもの穏やかな休日の眺めと
キッチンからいい香りを漂わせるおやつの存在がある。
これから先も万が一の事態に備えていけるように
今はできることを続けていかなければならない。
この嵐の後で私たちにできることは少ないかもしれないが
大変な夜を乗り越えて仕事を果たした家族へねぎらいの言葉をかけて
ゆっくり休ませてあげることが
私たちにはできるのだから。
海晴姉のために小さな子たちが真剣な顔でうるさくならないよう過ごす
静かな休日には
せめて吹き出してしまわないようにする努力を私も続けるべきなのだろう。
ここは嵐の後だとは思えない優しい日差しで暖かだ。
光の下のすべての人がこんな気持ちであればと儚い願いを持つことは
誰でも同じだという気がするな。