星花

『発声練習の朝』
今日はなぜか
おのおの
自分の考えられる限りで
ぜひ、おなかをすかせておくように!
との指令が
霙お姉ちゃんたちから伝えられていたので
その横でホタお姉ちゃんも
何かあったらできるだけ何とかしますと
なんだか要領を得ないことをニコニコ言って?
そういうことだったので
朝からみんなで集まって
どうしようか話し合いをしたような
最初からなんとなく決まっていたような。
というわけで
知っている限りの歌と
知っている限りの踊りと
楽器はないから
手拍子だけを使って。
みんなが知っている
むかし、幼稚園で教わった楽しい歌に
揃っていきました。
こうなることはわかっていたとは
後になって、氷柱お姉ちゃんがつぶやいたんだけど。
確かにわかっていなければ
予想して備えておくのはとても大変なくらい
重なる声は
窓を震わせ
四方の壁にびしびしとヒビを加え……そんなイメージで
泣いたりけんかしたときの大きな声と動作も
今日はまっすぐ
習いたての歌と見よう見まねの足取りに向かって
楽しまないといられないようでした。
春が近づくと聞こえてくる鳥の歌声や
蝶の踊りみたいなものは
私たちは最初から全然
生まれたときにお母さんのおなかから持ち出したりはできなかったので
自分の体の中に最初からないものは
ひまを見て考えてみたり
教えてもらったあと
練習を続けるしか
覚える手段はないのです!
ちっとも上手じゃなくても
声を出して
テンポがずれていたってかまわずに
手を取り合って
お互いの足を踏み──
一曲終わったらお礼に頭を下げるの。
聞いた話によれば
霙お姉ちゃんとヒカルお姉ちゃんは
手作りに自信がなかったそうなのです。
なーんだ。
教えてもらっていたら
なんだか面白そうで
後学に役立ちそうなお料理の手順をのぞきに
作業中のキッチンに堂々とお邪魔していたかもしれないのに。
いい匂いでおなかがすいていたと思うよ。
たまご、かんぴょう、
きゅうりにさくらでんぶ。
きれいに巻くだけだから
おいしそうになるに決まっているの!
なんて喜んで
もりもり食べながら笑ったら
霙お姉ちゃんたちはむむむって顔を見合わせていたの。
はたして
何があったのか……
ひょっとして
これは……
くり返し練習を重ね
苦手を克服したのでしょうか!?
ホタお姉ちゃんが投げた意味深な目配せは
いったい?
今度はぜったい行きたいお花見のときにも作ってねってお願いしたときの
むむむってふたたび見合わせた顔は?
これからあまりお天気がよくなくて
冬の寒さが戻ってくるらしいのを心配しているのかも……
今年は家の中で過ごす時間が多そうな春休みです。
歌う声と元気は
どうやらまだこれからといった感じなのですけど
今からが本番となると
窓や壁とかは
どこまでがんばってくれそうでしょうか。
打ち鳴らす手のひらは。
みんなの喉は。
いくらでも入る丈夫なおなかは。
おぼえたら
何度もみんなを誘っておねだりしたくなる
大好きな歌のお気に入りがどんどん増えていく
胸の中は、
どこまで頑丈に作られていて
にぎやかな春休みの間を耐え抜いてくれるのか
季節はもう、夢中になる子供たちを
止めることができないのだと聞きました。
そして
大きな声も
したいことに向かっていくのも
好きだと叫ぶのも
まだ小さな私たちには
重ねる毎日の練習が必要みたい。
ベッドに走る
疲れたときのお休みもそうかな?
星花もまた
明日は新たな修行の日になるのかもしれません!