『失寵』
終末はいつも近づいている。
一瞬ごとに私たちは滅びの時へと進み
宇宙もまた同じだけの時間をかけて同じ年をとり
みみずもおけらも同じ一日を過ごして
終末へと近づく。
全てのはじまりから決められていた
塵になる運命。
あんまりチビたちが元気だったりすると
つい忘れそうになり──
ああ、いつも弟もいてくれることだし
明日も楽しみだなと
気楽なことを思う春休みの日々。
だから時には
庭の葉を叩く雨の音を聞きながら
目を閉じ、好きな本を膝に開き
たまに伸びをしたり、あくびをしたり
漆黒のココアを入れたりしつつ
果てしない宇宙の行く先と
ちっぽけな私たちの姿を思うのも
きっと人間には必要な時間なのだろうとそういうことにして
まったり過ごしていたというのに
この状態は他人からは
あまりにも暇すぎるように見えてしまうものだから
することがないなら
お手伝いでもしなさい、
予習復習もしなさい、
小さい子が見ているんだから
みんなのお手本になりなさいと
まわりがちょっとうるさい。
しかし、言われてみればそうだな。
小さい子たちはいつもきらきらした目で
するどく大人たちを見つめている。
あの透明な瞳の前では
何も隠し事は出来ないような
そんな気もしてくるな。
だとしたら
いきなり付け焼刃でしっかりしているように取り繕っても
無駄だとも思うが──
まあ、なるべく努力をして
かっこよくなろうとしている不器用な背中を見せるのもいいか。
あの子たちも何か思うところがあるかもしれない。
というわけで
同じようにすることがなくて
青空をぶんぶん振り回していたために怒られたヒカルと相談し
何か出来るところを見せてあげようと
近いうちに予定している、というか行けたらいいなと話だけはしている
お花見のため。
お弁当に入れる巻き寿司の練習をして
明日の昼食を任せてもらうこととなった。
一見した感じでは
具を並べて巻くだけなので
簡単に見えるというあれ。
むしろ、簡単に見えるから
実際にやってみると意外と食材の扱いに慣れていないとうまく巻けないことが判明し
想像以上にブルーな気分になる経験を
蛍も春風も海晴姉も話題にする
あの恐ろしい巻き寿司だ。
ふだんはだらけて見えても
大人だし、いざという時はやってくれるだろうという
特に根拠のない周りの期待も
ついに終末への道を踏み出すこととなる。
今のうちから言い訳を考えている。
向き合う先は
どうしようもなく時の刻みに合わせて崩れ落ちていく足元──
それは甘く堕落をまとう瓦解のしらべ。
まあ、そうだな。
蛍も手伝ってくれるというし
なんとかなるだろうと
そんなフラグを目の前に見つめながら
わりと近くにあったひとつの終末へと踏み出していくのだ。
うん。
少なくとも、ふだん何も難しい考え事をしないような顔の
胃が丈夫な家族が一人いるとわかっているから
食材が無駄になったりはしないはずなんだ。
恐ろしい道と知りながら行くこの快楽。
まるで大人になることを試される試練、
それとも世界で唯一つしかないオーダーメイドの絶叫マシン。
恐れに震える足を励まし
手を取りあい、共に進んでいけるのは
他の誰でもない。
男の子らしい食欲を持ち合わせた育ち盛りの弟だけなのだ。
なるべく食事の摂取量は調節しておいたほうがいいかもしれない。
空腹であれば何を食べてもおいしいという
儚い祈りのような古くからの言い伝えもあるのだから。