綿雪

『10年後』
ユキです。
あのね──
うれしいことがあった日は
お兄ちゃんに聞いてほしいの。
とても小さなことだけど──
お話してもいいですか?
ユキは体が弱いから
あんまりみんなと並んで
走ったりおどったりできないんです。
無理をしていないつもりでも
体がそう思っていないみたいだから──
普段から、がまんしなければいけないことが
人より多くて──
どうしても、それだけはしょうがない。
でも、おうちの中はいつでもご用がいっぱいで
手が空いている子を見つけては
その背中の、隙があるほうから──
明るく声をかけてぎゅっと肩をつかんでくるのです!
マリーちゃんたちは
きゃあきゃあ言いながら肩をつかむ手から逃げるのも
好きなのかもしれないけれど──
ユキはやっぱり
お姉ちゃんたちに見抜かれたとおりに
手が空いている──
てもちぶさたで
しかたがないところを
よく見つけてくれましたってかんじ!
ほこりが舞うようなお掃除でなければ
掃除機を引いての掃除に
物干しざおの前の日差しもまぶしいお洗濯のお手伝い、
洗濯物を畳むのも任されて
それにお料理──
たいしたことは全然できないけれど
卵を割って卵白を分けたりかき混ぜたりは
お菓子作りでよく必要になる
工程でしょう?
氷柱お姉ちゃんが思い立って
ちょっとは練習をしてみたいと言った
今日みたいな時──
ユキはお姉ちゃんに教えてあげられることがあったの。
それがうれしい──
そういうお話。
ホタお姉ちゃんは、ユキががんばっているから
このまま10年も修行すれば
今のホタお姉ちゃんの年に追いついて、
もしかしたら
お料理の腕前も追い抜いているかもしれないよ!
なんて褒めてくれるの。
まさかあ!
ほんとう?
だけど、ユキがお手伝いできるようになったのは
素敵なクリスマスプレゼントみたいに
お兄ちゃんが来てくれてからの──
だんだん元気になってからの、ほんの短い間だけでしょう。
それでもう
氷柱お姉ちゃんに教えてあげられることがこんなにあるなら
10年もしたら
本当に──
もしかして──
だけど、氷柱お姉ちゃんは頭がいいから
ユキが教えてあげたことも一日でできるようになったの。
追いつかれちゃった……
うふふ。
もっと、がんばっていかなくっちゃ。
これからも──そう、これからも。
ユキ、やる気いっぱいです。
さて、
氷柱お姉ちゃんのお菓子は
一晩冷蔵庫で寝かせて──
明日に仕上げ、
みんなで食べるという順番で
工程を進める予定になっております。
おいしくできると──いいですね!