綿雪

『おねむ』
夜が来ると
お外にそっと
安心して目を閉じたらいいよ、と教えるみたいに
神様が手をかざして暗い星空が広がるのは
よい子たちみんなが幸せな眠りにつくのを待っているから。
おだやかで、静かで
お昼の間はいっぱい遊んだ子たちに
そろそろゆっくり休む時間。
明日もまた一生懸命にとんではねまわるまで
遊び足りなくても目を閉じて
いろいろなことがあった日におしまい。
誰もが明日を待つ。
何が起こるのか少しもわからない
怖いような楽しみのような明日が来るのだから
いっぱい遊んだ一日にお別れ。
だってもう
夜が来たんだから。
だからユキは眠ります。
朝になって、まぶしい光とにぎやかな声、
それからあたたかい湯気が広がるおいしそうな匂いで目が覚めるまで
もう少し。
目を閉じたら、もうすぐなの。
おやすみなさい
今日、ユキがきょろきょろ見つけたすべて。
おやすみなさい
ユキのたった一人の大切なお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、ユキが幸せな夢を見ることを祈っているの。
だからユキは
お兄ちゃんも楽しい夢を見てゆっくり眠れたらいいって願うことや
家族に囲まれて大きな声ではしゃいだ今日が終わるのがもったいなくてしょうがなくって
さみしくて──
もう少しだけ起きていたいなんて
ベッドの中で目をぱちぱちさせて
もう少しだけそばにいて
なんて小さい子みたいに甘えるのは
とりあえず、横において
一番大事な
ユキもかなえたいお兄ちゃんの希望のために
目を閉じて、素敵な夢を見ることだけを思って
すうーっと枕に
吸い込まれていくみたいに横になる。
明日の朝は
真っ先にお兄ちゃんにおはようを言いたいって
それくらいは目を閉じる瞬間に思い浮かべてもいいでしょう?
朝が来るまでに
夢の中に現れるかもしれないお兄ちゃんも
きっとやさしい
ユキのあこがれ。
大好きな、いつも隣で手をつないでいたい人。
だけど本物のお兄ちゃんは
ユキの夢の中にだってちっともあらわれないくらい
やさしくて明るくて
まぶしいお兄ちゃん。
だからお兄ちゃん、約束してほしいの。
今夜これからユキが見る夢は
小さなユキが生まれてから今まで一度も見たことがないほど
楽しくて幸せで
本当にお兄ちゃんといつもいるような
うれしくてたまらなくて
弾んではねたりしてしまう
そんな夢になるように
お兄ちゃんがいっぱい祈ったから大丈夫、って
それだけをどうかユキに伝えて。
お兄ちゃんがいてくれるから
ユキは怖がらないで眠れるはずだって。
夜になったら、ユキもお兄ちゃんも
みんなどうして、なぜぐっすり眠るようになっているのか?
吹雪ちゃんが教えてくれたの。
その理由は
なんと、まだわからない!
こともあるらしいけど。
それまでいろいろなことをした記憶を
まとめて
並べなおして
お片付けをする。
ユキのあたまは
小さくって
お兄ちゃんの胸にも、氷柱お姉ちゃんの胸の中にも沈んでしまう。
包まれて──
そのまま、お兄ちゃんの一部になってしまいそう。
気が付いたらユキがいなくなって
お兄ちゃんの胸でもう離れることができなくなってくっついてドキドキしていても
そういうこともあってもおかしくない!
かもしれない。
おかしな想像をときどきするの。
こどもだからなの。
ユキは小さくて
お兄ちゃんも氷柱お姉ちゃんも大きいなって
ふんわり甘えてしまうので。
すぐにわかること。
このままとけて
ユキがお兄ちゃんのものになっても
それは普通にある、当たり前のことなんだろうなあって
そんなに小さなユキの頭の中でも
夜になったら幸せな眠りが
覚えたことを片付け中。
ていねいに
あっちにどかして
こっちに積み重ねて
せいりせいとんすることにかけては
吹雪ちゃんにも負けない
それが、夜の夢。
どんな思い出の一つも忘れないように
名前を付けて、並べていくらしい。
うわあ……
ユキの頭のなかってすごい!
頭いいんだね?
起きている間のユキは
そんなに吹雪ちゃんがていねいにするみたいに立派なお片付けなんてできない。
でも眠っている間は特別。
すごいの!
夜の眠りはとっても大事。
だからユキは眠ります。
一人でさみしくても
寒さで体調に影響があったら
せっかくはじまった学校に行けるか、不安になったって
やがて夜は必ずやってきて
お兄ちゃんがユキと話してくれたことを全部
夢の中で大事にとっておいてくれる。
だから大丈夫。
今日もユキは眠れます。
うれしいことがいっぱいあるみたいに笑って目を閉じて、
ほかほかしている柔らかなおふとんのなか。
今日一日も
がんばりました。
これから目を閉じてユキが出会うお兄ちゃんはかっこいいの。
本物みたいなんです。
きっと今夜はそう。
信じているから。
だから、お兄ちゃんも眠る前に
ユキが幸せでいるんだと思って
安心してほしい。
ユキはそんな時、
お兄ちゃんもいい夢を見ていたらいいなと考えていると
いつも思い出してくれたらいいの。
もしかしたら
こんなユキの願いだって
ちょっとは効果があるかもしれないでしょう?
お兄ちゃんほどじゃなくたって
ユキだって。
お兄ちゃんの妹だから、祈っている。
今この時も、ユキと同じくらい
お兄ちゃんが幸せでありますように。
そんな力がなくても
何も意味がないかもしれないけど、ユキは思っているから。
お兄ちゃんは今夜も幸せでいるんだって
いつか信じられるようになるはず。
ユキは明日の朝、お話ができるまで
いい子でおやすみをして待っています。