氷柱

『またしても』
近づいている台風。
連休を直撃している脅威も
このあたりは、今のところ思ったほどでもなくて
小さい子だってお姉ちゃんたちだって庭に出て
飛び回ったり寒そうに体を縮めたりしている。
ついでに、我が家族のお兄ちゃん兼、
私の命令を聞くのが大好きなしつけの行き届いた犬もまた。
風が出てきたら、厚着をして調節するくらい自分でできてもいいのに
引っ張りまわされて
汗をかいて
大丈夫かなと思っていたら
シャワーを浴びたらさっぱり。
そんな頑丈な生き物は、単純にできているあなただけね。
もしも、ありえないことにこの体力バカが風邪になったら
家の繊細な子たちに効果があるのと同じような
普通の看病で治るのかどうかも疑問になってくるほど
よくわからない体の構造をしているんだから
自分の体力を過信するんじゃなくて
体調管理くらいはしっかりしなさい。
大事なときに私の役に立てないなんてことになったら
きっと濡れた犬みたいに
泣きそうな心細い目になって震えてしまうのが
今からもう浮かぶようだわ。
そんな情けない思いをしないようにしなさいよね。
我が家には、外の気温を考えてちゃんと家に戻って体に気をつける
ユキみたいな賢い子もいるの。
一年生だって、下僕にとっては学ぶところも多い先生だから
ちゃんと見習ってね。
誰かが汗まみれになるまで連れまわされてバカっぽかったくらいで
気温が下がった秋の休日も
まあまあ何事もなく過ごせたわね。
立夏は、今日の風の匂いに
鼻をひくひくして
ついに台風の気配を感じ始めたそうで
近づいている!
西の曇り空を見上げているけれど
本当なのかしら?
もしも立夏が、うちの家業のお天気お姉さんを継いだら
世界初、
カンで予報するお天気お姉さんになるのね。
それとも、
肉球をぺろぺろ
ひげをととのえて
顔を洗ったら雨になるタイプのお天気お姉さんね。
片手をあげて、何かきらきらするものを招きそうな。
いや金運はないか。
のんきな冗談を言っていられるのも今のうちかもしれないわ。
このあたりでは、大きな影響を受けるのは
月曜日の夜から、火曜日の朝にかけて。
予報では、未明までが特に激しい雨になるそうだから
霙姉様が期待しているほど登校時刻には重ならないみたい。
休校にもならないでしょうね。
今のうちに、霙姉様を連れ出す手段を考えていたほうがいいかもね。
きっと時間ぎりぎりまで往生際の悪い姿を見せるだろうから。
どうもまじめな話をしようとしたら
すぐそれていってしまうけれど
話題を吹き飛ばす暴風だとか
まだ強い台風はここまで来ていないのに何なのかしらね。
今度の台風の規模を考えたら
実際、休校になってもおかしくないくらいではあるんだけど
どうも霙姉様のあの飄然とした顔が出てきてしまうから
心配するにしても、真剣になりきれないのよね。
何を言い出すかわからなくて
怒るより先に
見ていて唖然とするというか。
今日は観月と何を盛り上がっているのかと思ったら
龍は嵐を呼ぶそうで、今度の台風にも雨雲の向こうに巨大な姿が見えるのか、
っていう観月の子供らしい疑問に答えて
龍の喉元には
何者も触れることが許されない逆鱗があるという。
我が家によく嵐を呼び込むのも
いつもぷりぷりしている氷柱なのだろうって
どんな話!?
悪口なのかどうなのか
怒っていいのかもよくわからないわ。
まあ、いちいちくだらないことでイライラしていてもきりがないもの。
下僕がどうしても心根を尽くして
たったひとりのご主人様心を慰めたくなっているようだから
いつも立派な人格者である主人としては寝る前に芸を見てあげるから
下僕の努力が少しくらい見苦しいものであっても寛大に受け取って
穏やかに、何事もなかった一日を締めくくろうと思っているの。
言っておくけど
もしも余計に人の逆鱗に触れるようなことをしたら
私もいつまでも穏やかでいるとは限らないから
休日なんだし、いい気分にさせて眠らせてよね。
それと、今言った私の逆鱗は物の例えだから。
嵐なんて呼ぶつもりないし。