『こたつ』
世間は台風の話題で
何かと騒々しいが
私たちの運命は
どのような時も
風に揺れる木の葉と変わらない。
時の流れに儚く漂い
いつ消滅を迎えるのか知らず
やがて来るその時を待つだけが
形あるもの全てに与えられた
宇宙の定め。
それでも、受け入れられずに
弱い力でかすかに抵抗するものたちを
私は遠く眺めて
彼らの定めを悲しんでいるのか
そのひたむきさに目を奪われてしまったのか
耐えられないほどに短い一瞬に輝いた美しさを
ただ慈しんでいたいのか
感情は、銀河のどこかから届くかすかな光のように
小さな光を放つ。
ニュース番組をにらみつける麗が
鉄道情報が届くたびに嘆きの声を振り絞り、
もしも自分がもう少し大きかったら
こんなに運休ばかりが続かないよう
何かできることがあるかもしれないのに!
と、漏らしているのを聞くと
いや、できないだろう。
台風だし……
それは電車も止まるんじゃないかな
と、思いつつも
この子が大きくなる頃には
もしかしたら、こんな思いが
わずかに世の中のどこかを変える力になって
その時は、未来型の仕組みで動く電車も
台風の日に外出してしまった大変な人たちを
今よりも少しくらいなら頼もしく支えることができるのかもしれない。
風が出てきたな。
部屋の中にいてもわかるほど、地を叩く雨の音は大きくなっている。
もう良い子はみんな眠りについた頃だから、
きっと布団をかぶって怖がっている子なんていないだろう。
こんな時間まで用事があって起きている者たちは
今頃、布地の海でもがいて朝までに片付けが終わらないと泣いていそうな
まったく台風どころじゃない蛍のように
別のことに気を取られているのか、
台風情報を伝えるテレビの仕事で
外にお泊りで帰ってこない海晴姉みたいに
今まさに必要な役目を果たしている真っ最中なのか、
それとも、もしも目を覚ましていたら
明日には、王子様が来てくれることを待っていたと
怖かったのか余裕があったのかよくわからないことを言いそうな
春風のように
自分だけの特別な思いにふけっているのか
いずれかなのだろう。
台風の音が、家族の眠りを妨げないように
私にできるのは祈ることだけ。
他に何もできない。
夜遅く、家族が寝静まった時間にまで
台風の音を気がかりに聞いているのは
ただ、それだけが理由なのかもしれない。
あまり嵐がひどくならずに
家族をこのまま静かで楽しい眠り
通り過ぎていってくれるように
台風の動きに何も影響を与えないはずの祈りを
粛々と、ひとつの儀式のように
次第に強くなる音に耳を傾けている。
家の中は今日も騒々しかった。
一日雨だったというのにな。
夜くらいはゆっくり休ませてやらないと
明日から始まる毎日も、楽しめないかもしれないから。
私の家族たちが
今は、何の悩みも不安もなく
台風が過ぎた後の明日を夢見て眠っているように。
静かな夢が破られないように願う。
起き出す頃は、たちまち家中を包み込む大きな声と
それぞれの表情を見せる者たちに
心を悩ませながら続けた祈りも、たいして必要なかったことを知るだろうけれど。
今は、夜の闇を吹き抜けていく風の音を感じながら
わきあがる小さな思いの中に、素直に身を任せるとしよう。
あるいは今頃、立夏などは
騒がしかった一日のことを眠りながら思い返して
静かな眠りと呼べるのかわからないうるさい夢の中にいるかもしれない。
なにしろここ数日は気温も下がって
ついに満を持して押入れから飛び出したこたつに
この家で一番はしゃいでいた一人だったからな。
うれしいから踊るとは
立夏もまだまだ子供でかわいいものだ。
大きなイベントだからお祭りのように騒ぐのも
人間の自然な気持ちだというのもわかるが
はたして、まわりで踊ってほこりを立てて
久しぶりに眠りから覚めたこたつは喜ぶだろうかと
その点までは思いが至らなかったようだ。
私たちはこの瞬間を喜ぶなら
ただだまって、暖かさをかみしめるだけでいい。
こたつが暖まるまでの待ち遠しい時間は
寄り添い合って、お互いの胸の鼓動を感じられる者と
少しの言葉を交わして待っていれば
それで楽しいのだから
狙いを定めた相手を巧みに引きずりこむ技術も
こたつの喜びを増してくれるに違いない。