春風

『濃霧の森』
白く包み込むお空の神秘的なカーテン。
湿った足元は冷たく
心細くて寂しい気がするの……
いつもより少し見通しが悪いお天気。
春風を育ててくれた大きな街の景色も
すっかり霧の中に埋もれて見えなくなってしまう
こんな日もたまにはあります。
小さな子たちは
迷わずに帰ってこられるかしら?
寂しくなってしまったり
思いがけない寒さにぷるぷる凍えていないでしょうか?
まあ、臆病で引っ込み思案の春風と比べたら
みんな明るくて元気いっぱい。
少々のことは関係ないかもしれません。
でもみんな
甘えん坊だからどうかなあ?
もうすぐやってくる紅葉のきれいな季節が待ちきれなくて
手を伸ばすような枝の先が次第に染まりつつあるのを
うれしそうに報告してくれたのに
これでは物足りなくってうつむいてしまうかな。
視界のきかない
深い術をかけられたかに思われる肌寒い秋の街並み。
はしゃいだ声も吸い込まれてしまう霧の中には
何か怖いものが隠れているのかも。
こちらを狙っているのかも。
目を逸らした隙に
凍りつくような霧が押し寄せてきてしまったら!
春風は確かに怖がりだけれど
頭を覆って隠れてしまうよりはもう少し
春風の知ってる景色を見回して
びくびくしながら
でも面白いものを見つけてびっくりするの
好きだったの……
気付かなかった小さな発見があると
なんだか気持ちいいでしょう?
霧が晴れたときに
知らないものを見つけるのかなってどきどきして
もしも明日
見慣れない景色が広がっていたらって
自分の想像に思わず
きゃあって声をあげ
海晴お姉ちゃんの胸の中に飛び込んで
抱きしめてもらっていた昔のお話です。
今でも霧に包まれるような
何もわからない手探りの
未経験の思いばかりを抱いて
知らないことだらけのあなたへと進んでいくのだから
怖いやら
楽しみやら
子供みたいに顔を真っ赤にしてどきどきしているのね。
ずっと前から
何も見えなかった先に
知らないことが広がっているはずっていう
不安と──
かすかに灯りゆらめく期待。
別にいつも新しい発見ばかりがあったわけではないのに
今も信じてしまうのは
なぜなのでしょう?
意外とお気楽なほうなのだったのかしら?
今日はみんなが
あんまり心細い顔ばかりをしませんように。
ついでに明日は
できれば少しの晴れ間ものぞいて
弱い春風が笑顔になれそうな少しの助けをください。
変わらないくちぐせ。
明日天気になあれ、って
何も見えない闇の奥には
もうあまり怖いことがないようにと
それから、せっかくなのでびっくりするような
面白いことが見つかったり
完璧すぎると思ってしまう
好きな人がちょっと油断した
かわいい姿を見せてくれたりするなどのことがあったら
うれしいです。
そしたら春風の小さな胸は
驚きに高鳴りすぎて困ってしまってもいいのにな。