春風

『セイハロー』
麗ちゃんの様子が
このところ
物憂げ──
いつも夏休みには
一番最初に宿題を終わらせて
なんだかんだ言いながらも
他の子の手伝いをしたり
趣味の時間を作ったり
充実した日々を過ごしていたように見えた
麗ちゃん。
かっこよくて
やさしくて
頭が良い──
食べ物の好き嫌いも
そんなにうるさくないほう。
だけど、ある日
突然の出会いから
全てが変わってしまい
世界は鮮やかな色がついて
昨日まで自分を構成していたすべてが
丸ごと入れ替わったかのような──
そういうことって
誰にでも、
あるのかもしれないけれど。
私が王子様と出会い
話すたびに
違う景色が広がる場所へ
手を引かれていく小さな子供の自分を
知るように──
麗ちゃんは、たくさんの出会いをしてきたみたいなの。
でも、そんなすばらしい日々をくれた世界は
突然のコロナ禍ですっかり様変わりしてしまう。
失われて二度と戻ってこないものも
たくさんあるのを知っている──
ぼうっとしがちな春風でもわかることなら
麗ちゃんであれば
どれだけ痛いほど感じていることだろう──
今日もあんまりご飯を食べられないで
少し残したみたい。
このあいだ、体を壊したばっかりなのに。
春風では──力になれることは
なんにもないのかもしれない。
ただ遠くから見つめて、心配して
世界をもとに戻したりする力も何にもない春風が
できることはひとつも見つからないのかもしれない──
春風は大家族の三番目のお姉さん。
小さなころからみんなの前でしっかりしようと
大人ぶってきたくせに
まったく仕方がないですね。
でも、春風の大切なものは
いつでも家族だったの。
泣いたり落ち込んだり
元気に飛び跳ねたり──
そんなみんなが
春風は大好き。
誰よりも落ち着いた顔をして
その実は一番──はしゃいでいる顔がまぶしく輝く
麗ちゃんが春風は大好き。
とっても大事で
守りたいって
思っているのにな──
きっと元の生活が戻って来るから、なんて
約束をすることは
頭の悪い春風ではできないけれど。
だから元気を出して、なんてことは
春風には言えないけれど──
でも、麗ちゃんに早く元気になってほしいと
いつも願っている人がいると
伝わればいいなと思っています。
進まない様子の宿題も──
春風にできることなら、
手伝ってあげるからね!