春風

『ときめき』
この世に生きとし生けるもの。
神様の愛を受けて世界に大声を響かせて生まれてきた
あらゆる命。
声を出さない生き物もいる?
だけど、どんな形であってもこの世に声をあげるように
大きな力をとどろかせながら共にあらわれた全てが
たったひとつの例外もなく求め続けるものは
胸がきゅーんと甘い音色を奏でる気持ち。
それはときめき。
鐘の音のように全身をしびれさせながら鳴り響き
嵐に乗って運ばれるより早く押し寄せたら
どんなに頑なな壁だって抵抗できずに崩れ落ちるの。
優しいハートの光線。
夢の中よりきれいな虹色の舞踏会。
いつまでも同じ景色を繰り返せない変わり続ける万華鏡が
私たちの目の前に広がって
感じやすい乙女の心をつついては過ぎ去っていく。
いけないことかしら?
妖精たちの羽が落としていく銀の光。
それに触れる度に心はくるりくるり
とりとめもなく回り続けます。
吐息もとろけてしまうくらいに
春風の胸が体中に送り出す炎で
全身熱く波うっているんだわ。
もう止まらない。
どうしましょう?
もはや何者だって解決できないと
最初からみんなが知っている、そんな事件が起こって
この地球上に最初の命が生まれて以来
どきどき誰かを求める心は止まらないまま。
台風が近づいて、強い波が荒れ出した海から影響を受けた風が
ほてった頬にひりひりしみる激しい午後に
春風が見つけたのは
今まで気がつかなかった小窓を見つけて
新しい景色に呼びかける青空ちゃんと
強風で縮こまる幼稚園の妹たちを前に
びゅうびゅう向かい風を受けて、こんなときこそ愛を歌うときだと
前髪も吹き飛ばされそうにおでこをまるだしにするマリーちゃんと
風鈴を片付けておくお仕事を任されたはずが
どうもなんとなく鳴らしている間に
その気持ちのいい音で眠り込んでしまっていたらしいヒカルちゃん。
寒い日に体を壊さないようにって
入念に準備運動をしていたのが原因でしょうか?
春風もストレッチを手伝ってあげたの!
ヒカルちゃんの体は
しなやかで筋肉がついているけれどしっとり感じる柔らかさで
密着していると妖しい気分に誘われてしまいそう。
この気持ちのいい香りに包まれながら眠りに落ちたらどんな夢を見るのだろうか?
春風の疑問に答えが出るのは……
そういえば、同じベッドでマッサージをしてあげている途中で
二人ともぐっすり夢の中で
無意識のうちに同じ布団を引っ張って、仲良く分け合っていたことが何度かあったような。
いいシチュエーションなのに
意外と夢は覚えていないものです!
さみしいな。
これから寒くなったらなかなか難しくなりそうだから
運動の秋のあいだに
ヒカルちゃんにさんざん疲れてもらってまたお世話をしなくては!
新たな誓いのついでに訪れるのは
ときめく事件の予感です。
それと忘れたらいけない。
こたつを出して少し狭くなった和室を
丁寧に心を込めて過ごしやすくしたくてお掃除する小雨ちゃんが
つい誰かが置き忘れた絵本を広げていたこと。
春風に気づかないうかつな小雨ちゃんのを
もう少しの間だけでも眺めていたい……
だけど、このゆったり落ち着いて景色に混じって絵本の感想を聞いてみたり
顔に出やすい小雨ちゃんの気持ちをすぐ近くで受け取ったりしたい。
どうしたらかなうのかな?
春風の欲深い望みは
どこまでも果てしがないのでしょうか?
でもきっと
気持ちを言葉にできないで隠してしまうより
こうして全身で伝えられるほうが
春風はずっとうれしい!
だからもうまず最初に
小雨ちゃんかわいいな!
だーいすき!
両手ではさんでつかまえて
まるかじりにして食べてしまったのでした。
おしまい。
というのはうそで
ぎゅうぎゅう同じこたつに入れてもらいました!
楽しかったな。
ひみつのお話。
ところで王子様!
小雨ちゃんとのひみつは
約束なので明かしたりできないのですけど
それじゃあ王子様がかわいそうですもの。
本当はそんなことないとわかっていても
ちょっとのけものにされたみたいな気持ちになることって
あるでしょう?
わかります!
王子様、わかってください。
春風はあなたと二人だけで作る秘密が
何よりも愛しくて本当に大切で
確実にこれから何年もとろけて形がなくなってしまうのがわかっていても
もはやどうにもならない。
積み重ねたあなたとの日々で
体はもう知っている。
二人の秘密のせいで春風は
甘くとけてとけてまだまだとけて
もうどろどろです!
それはもう愛するものたちなら
しかたのないことなんです。
だから王子様、
何の遠慮もいりません。
お望みのまま春風の体の奥深く
体中にとめどなく熱い炎を送り出す場所へ
あなただけの秘密の傷跡を刻み付けてください。
もう待てないんです!
真っ赤なハートはいつでも願うの。
王子さまの秘密
もっとたくさんおしえてほしいな。
待ってます。