小雨

『ひとりぼっち』
いつだったか聞いたおはなしでは
鏡の精は美しい目で見つめられると
やきもちをやくのだそうです。
すると鏡が割れてしまったり
安心してご主人様にできる
他の人のところへ逃げ出そうとすることもあるみたい。
不思議な力があるってよく言いますよね。
白雪姫に出てくる鏡もそうだったのでしょうか?
すぐに答えが出て忘れられないほどに
それはもう美しい白雪姫なのかもしれないですね。
家の中ではよく、鏡に話しかけて自分で答える
夕凪ちゃんや虹子ちゃん、
海晴お姉ちゃんや
蛍お姉ちゃんを
見かけることがあります。
小雨もつい気になって
鏡よ鏡さん
小雨の好きな人は誰なのですか?
なんて聞いてみると
立夏ちゃんの声で
それはお兄ちゃんですと帰ってくるから
恥ずかしいけど、やっぱりそうなのかもしれないですね。
ぜんぜんやきもちの話ではなくなってきましたね……
べんりな魔法があったらなというお話かな。
だけど鏡にそんな力があったら
そんなに派手じゃない小雨のところに
たくさん鏡が集まってしまうかもしれないし
一目ですぐにわかるくらいきれいなヒカルお姉ちゃんだとか
麗ちゃんのところには
あんまりいくつも鏡が残らなくなってしまいます。
よく使うというより眺めて感心している
麗ちゃんが好きな手鏡は
華やかな飾りはなくたって
まるくて機能的でかわいくて
いいんだって。
お気に入りのものと一緒にいられるって
意外とないものだから。
小雨は落としたりこわしてしまうほうだから……
しかも壊れたかけらを役に立たなくても大事にとっておいてしまうほうだから
麗ちゃんが自慢したいときに
ひとつの鏡に映る、こっちを見つめ返している顔を見ていると
麗ちゃんの横にいられるのが
こんな小雨でいいのかしら?
ぎこちない笑顔をしているの。
うれしいのに。
笑っているのに、ちょっと悲しそうなんです。
泣き出しそう。
麗ちゃんはもっと近づいてって言ってくれるの。
気付いて励まそうとしてくれているのかなって
いつも考えていました。
うん、でも立夏ちゃんをすぐ隣に誘うのも
おとなしくしてくれないから……というか……えっと……元気だから……
たまには小雨でいいのかもしれません。
鏡の精だって麗ちゃん一人のときよりも緊張しないですむかもしれないでしょう?
いつか隣にいるのはぜんぜん違う人になるかもしれない。
明るい麗ちゃんだからそのほうが本当はいいんだと思う。
友達がたくさんできて小雨のことを忘れていくとき
鏡に映る小雨は
きっとうれしいから、今までよりもきっと泣きそうな顔なんてしていないと
そう思っていたのに。
よくおうちに遊びに来てくれるお友達が
麗ちゃんに渡してほしいって
すごく真剣に、とても紅潮した顔でお願いされたお手紙。
これを届けたら
もう麗ちゃんは一人ではなく
控えめなところもだんだんなくなって
小雨から遠く離れたどこかで
とても立派に
みんなに頼りにされて
まわりを明るくできる麗ちゃんになっていけます。
なんだかお兄ちゃんみたいでかっこいいですね。
小雨はなぜかさみしくなって
その理由がよくわからないのですけど
でも、せっかくお友達が増えるチャンスですから
ちゃんと応援してあげないとって思います!