春風

『春が苦手』
変わっていく生活──
新しい出会いと
新しい友達。
別れなくてはいけない人たちと
さみしい気持ち──
もともと、そんなに
器用でもないし落ち着きもないから
新生活の準備も
片付けもちっとも進まない。
要領の良さも手際の良さも
私ではないだれかのこと。
小さな春風は──
弱い春風は、
なんにもできない春風は
困ってばかりいて、
ふるえていて──
寒かった頃みたいに布団をかぶっていたといいます。
日の当たるお庭で遊ぶみんなを見つめながら、
ほころぶ花の香りを知りながら
春風はいつも
まわりのみんなに助けてもらって
泣きながら歩いてきたといいます。
鼻をすすり上げて──
家族がいてくれて
よかったと話しながら
そうしてやっと
ついに笑顔になる
春先の春風は──
その後もずっと、
なんにも変わることなく
何年も──
そしてきっとたぶん
これからも。
春が来るたびに困った顔をして
助けてもらわないとできないことばかり。
ほんとにもう──
どうしてこんなに急にいろいろ
変わってしまうんだろう?
ぽかぽか陽気で気持ちがいいから
ついついみんな
はりきってしまうのでしょうか?
今年もまた
だんだんあたたかく、
ときどきまた寒さが戻って来る──
こんな季節に
今までよりはうまくやってるみたいだと
みんなは少し──春風を見て安心するそうです。
ちっともそんなわけではないのに
ふしぎですね?
変わってしまうことばかりであわてていた春風は
助けてくれる人をたくさん見つけて
ほっとすることも増えたらしい──
お礼をしたいことも増えて行ってしまうらしい。
落ち着きのない春風にできるでしょうか?
また──布団をかぶって困ったり泣いたり。
ぽかぽか陽気の日を
一人では何もできない春風は──みんなと過ごしている。
あっ! また助けを求めるみたいにして手をつなごうとしています!
あなたはどうか──せめて、さみしがりの春風が泣き止むまでは
あたたかな手を離さないでいて──
この春もどうか、そばにいてくれますように。