春風

『ワンスモア』
体が温まる優しい鍋物の材料に
用意していた具材の野菜も、
ぽかぽか陽気が全部いけないのか
息を切らし汗をかいて帰ってくる子供たちの顔に
すっかり驚く春風のせいなのか、
そう──とうとう
春を迎えた明るい行楽の予感に
お弁当にして日なたで食べたり
手巻きずしでわいわいお祝いの雰囲気を楽しんだり
しているうちに──
ついに、冷蔵庫は
すっからかんになりました!
もう、みんなのために
風なんてひかないようにと祈りながら
寒いお外に出ていく子たちを応援するような
あの冬の定番メニューは──しばらくいらないですね。
さよなら──おなべ。
野菜たっぷりシチューだとか──
具だくさんおうどん。
いっぱいお世話になりました。
食べ物だけではないかもしれません。
あの冬に家の中にこもって
歌ったあの歌や
楽しかった遊びも、
もういらないだろうし
冬に来ていた暖かな服──
重い掛布団や出番の多かった毛布や、
もう春風が心配しているような
凍える日々ではないんですね。
少し──時間の余裕ができた時に
これから何をするのか
迷うようになるのかしら?
とりあえず、まずは──
食材の買い出しから始まり、
どこかにお出かけする情報を集めたり、
ただみんなで歩くように
散歩のコースを見つけ出したり
今から始めることはそれくらい。
春が来て
油断しすぎて──
財布を忘れたり、
おさかなくわえたどら猫を追いかけ
裸足で駆けたりしないように
気を付けるくらい。
あーあ、
お庭を歩くと
子供たちがどんどん走って見えなくなっていく。
みんなで集まって春を待っていた日々も
本当にもう終わったんですね。
春風も大好きな人と並んで一緒に歩き出せる
素敵な春を見つけ出さなくては、
あんなに急いで進んでいくみんなに笑われてしまうかもしれないわ。
王子様もそう思いませんか?