ヒカル

『探索』
にゃー
にゃー……
あっ!?
なんだ、オマエか。
このあたりで何か見かけなかったかな。
野良っぽい黒い猫がいて
エサをあげたら
よく懐くというけれど……
雨が続いて、急に寒くなったから
震える猫を見つけた春風は
良くないと知りつつも
ご飯の残りをあげてしまったという。
居ついてしまったらいけないな、うちで飼えないのに。
いつもかまってあげることもできないし。
でもなんとなく気になるんだって。
とりあえず今日は、春風も用事があるとのことで
私がエサやりを頼まれた。
いないな……
猫の鳴き真似が下手なのだろうか?
子供の頃から、大きな声を出しながら追いかけるから
見つけた猫は一匹残らず逃げていく。
小さいヒカルが駆けて行く先には
すでに生き物の姿は影も形もない。
でも、今日はそういうわけには行かないから。
今後のことはこれから考えるとして
頼まれた分の役目はきっちりと果たさないと。
うーん、ガサガサ足音を立てて警戒心もなく近づいてくるのが
まさかオマエだったとは……
思っていたより楽だったんだな……見よう見まねの猫の鳴き声で呼べるとは。
これから覚えておこう。
じゃあ、せっかく来たついでだ。
猫を探すのを手伝ってよ。
なにしろ相手は
しなやかな駆け足、走るためにあるような身軽な体。
人間が追いかけたくらいではどうにもならないターゲットだ。
罠を巡らせ、策を凝らして捕まえなければ
とてもエサをあげることはできない。
ん……別に捕まえなくてもいいのかな。
近づいてきてくれたらそれで──
いや、私のところに近づいてくる野生動物というのもいないからな。
いちいち動きが大きくてうるさいし。
そうだろう?
こんなに大人になっても、まだ口の前に指を立ててじっとしていることができないなんて
困ってしまうな。
猫にもなつかれないままだ。
うん、でもそのかわりに、捕まえるのが上手になっていそうな気がする。
協力してくれる仲間ができたんだし、
その人は簡単に捕まえられるんだから。