綿雪

『ホワイトデーの贈り物』
かわいいお花が一輪飾られた包みとクッキー。
いま、ユキの手の中にある宝物。
お兄ちゃん、ありがとうございます!
お花も包みも大事にとっておくの。
クッキーは……早く食べます。
おいしそうだから。
食べ物だから、とっておけるものでもないので!
ドライフラワーのお花はいつまでもつんだろう?
傷まないように箱に入れてしまっておかないといけないね。
ずーっと大切にする鮮やかな赤い色。
ときどき取り出して眺めるだけなら
ユキがおばあちゃんになるまで変わらずにいてくれるでしょうか?
腰が曲がるまで長生きするっておせちにえびを食べました。
ユキの長生きは縁起物にお願いをして
宝物が長持ちするかどうかはユキしだい。
今日は寒さが戻ってきたから
体が弱くて家にずっといなければいけなかったユキも
こんなふうに贈り物がもらえる。
とつぜん予告もなくもらえるの!
お部屋のドアがガチャリと音を立てて開き
なんだかうれしそうなお兄ちゃんの両手の中に
小さなユキへの贈り物があるのです。
あんまりお兄ちゃんが喜んでいるから
お兄ちゃんがもらったものだと思っていた!
今日はホワイトデーだったのね。
世界中のどんな子がもらっても喜びそうな
きれいなプレゼントだったので
おうちで静かに、布団の中であったかくして丸くなっていたユキもうれしくなって
何度もお礼を言ったことを
お兄ちゃんはもう知っているか!
バレンタインデーはもう一ヶ月も前。
あれからおうちでも
おひなまつりに猫の日に、
みかんのこと、やきそばのこと、おなべのこと、
ご本のこと、マフラーのこと、くつしたのこと、
ギャルのかわいいお姉さんになりたいこと
いろいろあったね。
小さくて不器用で味はふつうで
すぐにも忘れられてしまいそうなユキのチョコレートのこと
お兄ちゃんは忘れないでいてくれたんだね。
でもユキが子供だから
どんなに心を込めようとしてもむずかしくて
あんまり立派なチョコレートが贈れないのに
お兄ちゃんはユキが喜ぶお返しをこんなふうに用意できるなんて
なんだかずるい。
ずるいずるい。
ユキのお兄ちゃんはいつでもかっこよくてずるいので
やがてユキが大きく育って年頃のお姉さんになり
とってもきれいになって、ずっと隣にいても当たり前の
みんなや私たちが全員認めるお似合いになるまで
ずーっと辛抱強くいつもお兄ちゃんでいて
ユキのそばにいてくれなくては
いけないんだから……
たとえ、大人のことなんて何ひとつ知らない赤ちゃんみたいな女の子が
そのうち立派になるまでに
もっとずっと差をつけているとしても
必ず隣に並んでいるんだと
どうやら実現が大変そうな夢が叶う
その日が来ることをちゃんと信じて
本気で心から信じて待っていてくれる約束がなければいけません。
でないと、きれいなお花を見ても
ときどき悲しくなってしまうのだから。
そのかわり、ちゃんといつまでも待っていてくれたら
今度はお兄ちゃんがたまに疲れてしまってうつむいているとき
そんなのかっこよくないなんて笑わないで
ずっと悲しくてうつむいて泣いていたユキが
ぜったいに離れないで一緒にいてあげます。
ユキはまじめだって氷柱お姉ちゃんにも評判だから
きっとお病気が治ったら
いつ何があっても約束を破らないの。
うれしいこと、楽しかったこと
今日のこと、
全部忘れないで覚えている。
また未来のいつかどこかで大事なお花を手にとって話すときを
お兄ちゃんとユキは、楽しみにしていられる。
そんな約束をしても
ぜったい大丈夫なんです。