『マイホーム』
私の帰る場所はいつも
ちょっとうるさくて
油断するとからすよりもすばやく
おやつを奪われる。
ボールがときどき飛んでくるし
枕も布団も。
プロレス技をかけられた女の子が勢いをつけて
ぶつかってきたからって
いちいち気にしていたら体が持たない場所。
そこには私の好きな本や
おもちゃがまあ少しの量だけあったりする。
人が見ると多すぎるらしいけど
決して充分足りるとは言えないことを
私がよく知っているからまあ──たぶん間違いなく多くはないはず。
でも一応は
私だけのものではなくても落ち着ける部屋があって
眠ることもできるし
落ち込んで閉じこもってもいい。
元気になったり立ち直ったりして
部屋のドアを開けて出て行くことだってできるわ。
いろいろ達観したり忘れようと努力したりしながらでもね。
冬の寒さが厳しい毎日──
太陽が斜めにはっきり傾くのが
ばっちり良くわかる時刻に
生まれたばかりの白い風が首筋をくすぐったら
私の足は少し遠慮を忘れて
帰り道を急ぐ。
例えそれが気の進まない道で
まだまだ街には私を誘うものがあるとしても。
もし、私が背中を丸めて頬を擦りながら──
掃除を欠かさないLEDの明かりや
湯気の揺れるテーブルと最近のお気に入りのティーカップを
思い描いていたとしても……
何も変わらずに
勝手に足が辿る最短距離はたいてい同じ。
新しいお正月を迎えても
たぶんもう少し年齢を重ねた後でも
まあ、少なくとも昨日や今日のうちは
私の強い意志で変えようとしている気配は全く存在しないわね。
今日も一日分の肉体的なのと精神的な疲労をまるごと引きずって
入っていく寝床を用意してある場所よ。
ええ、子供も大変なの。
だからひとまず
このまま何にも変わらないような顔をして帰っていく
ここが私の家。
そのはずなんだけど。
なぜかこのごろ
びっみょう〜に居心地が悪いのよね。
どうしてだろう?
チョコレートの匂いはそこまで苦手ではないつもりだったんだけど
まったく不思議ね。
誰がどんな甘い言葉で誘おうと
理由はなにひとつとして思い当たらないわ!
あ、でもこっちがもらうなら
この落ち着かない騒がしさも
一応がんばれば許容範囲内には収まるかも。
うーん、いや、
やっぱりもらう理由がないから納得できないかもしれない。
まあ先に言っておくけど
今年もなるべく期待はしないでいてね。
何のことだか言ってる私もちっともわかっていないけどね!