真璃

『オンリーユー』
それはある日の出会い。
ねえ、フェルゼンはわかる?
わたしに見つけられるのを
待っていたみたいに
ふわふわで
甘くって
一口ほおばっただけで
まるで恋の情熱のように
人は幸福な天国へ行けるということ──
こんなにおいしい食べ物があるの。
ケーキっていうのよ。
うん、知っているのね。
それでは──
あまりにもふわふわした
この幸せを
手元にそろえた材料で
作り上げるという苦労を
フェルゼンは知っているかしら──
うかつなことに、マリーは
少ししか知らなかったかもしれないわ。
キッチンのお手伝いに連れ出され、
できるだけのことを
やらせてもらった結果が──
あまりにも
ぱさぱさで
味気ない黒焦げだなんて
そんなに悲しいことが
この世にあるなんて──
世の中を知ったような顔をして
実は見ないふりをしていただけだったのね。
マリーがただ
愛しい人を思って
クリスマスを一緒に過ごしたいと
願うだけの気持ちを
形にしようとしたことで──
こんなにも苦いよくわからないかたまりが
できあがる──
これが厳しい世の中というものなのかもしれない。
まあ、
大げさな言い方をしているだけで
別に心からそう思っているわけでもないんだけど──
でも、失敗するのは仕方ないとして
やっぱりケーキはおいしいほうがいいし
クリスマスに間に合わせたいわよね。
うーん──
まあ、なるようにしかならないか。
やるぞ!
というわけで、しばらくは
おいしそうなにおいばっかりで
家の中がいっぱいになると思うの。
フェルゼンもいい子でがまんしてね。
きっと、待っただけのことはあったと
言わせてみせるわ──