氷柱

『なんなの?』
珍しいって
からかわれたり
似合わないって
笑われたって──
すると決めたんだから
今日は手を抜かない。
できるかどうかはともかく。
と、そういう話。
あなたも何か言いたいことがあるみたいね!?
普段あんまり使わない
新品同様のエプロン。
慣れない手順ばっかりを進める
あぶなっかしい手つき。
まともなのは、動きやすいように
頭の後ろで縛った髪型だけ。
海晴姉様にやってもらっただけなんだけど──
というわけで
マホウがどうのと約束してしまった夕凪の尻ぬぐいに、
春風姉様にはマホウで作った一日くらいは休んでもらって、
子供と遊ぶのも自由。
ひなたぼっこもよし。
ただし、おうちのお仕事はしない。
春風姉様の代わりに家事の妖精があらわれるには──
だいぶ手間のかかる手順があるようね!
手品でも、一瞬の奇跡を観客に見せるために
道具を整えて何日も練習して、
長い時間を駆けて仕込みをするというわ。
手品どころでは手に負えない
大家族を切り盛りする仕事なら──
たった一日とは言え、
どれだけ頭数があっても足りるわけがない。
そういう理屈で
私が似合わない格好をしているというわけよ。
まあ、いつも忙しい春風姉様に
天からもらった一日の魔法がかかるなら、
これくらいは許容範囲ね。
お手伝いたちの間では──
うまくいったら
また何度でもやってみたいとか
ホタ姉様も休ませてあげたいとか
いろんな意見があるみたいだけど、
はたしてうまくいくものなのかどうなのか?
家の中が
だいぶしっちゃかめっちゃかになって
おやつやごはんの支度が遅れても──
春風姉様が喜んでいたらうまくいったことになるというのなら──
それは、ぜひ成功してほしい企てだと思うわ。
ほこりをたてているのかはきだしているのかわからない掃除、
難しいお料理に挑戦したい子とめんどくさい子がいて
なかなか話が進まないキッチンの中。
あんまり滅多にあることではないけれど──
あなたの家では
秋の一日をこんなふうに騒がしく過ごしている子供たちもいるそうよ。
うるさいのだけはいつも通りね。