『田園の女王』
蛍はあまり
小さい頃から──
街を駆け抜けて
道という道を知っている
タイプではなく、
かといって、右と左をきりりと見れば
どちらに目的地があって、
どちらに、目的地であるかどうかはともかく
面白い何かが待っているか──
ひらめきで捕まえるほうでもない。
そうしたら、蛍は
どうなるのかといえば──
食品の買い出しはそこまでたくさん必要ではないものの、
間近に迫るハロウィンの仮装に使う道具や
少し手持ちが心もとないときのATMへの寄り道、
早く帰って良い子のみんなの顔を見たい気持ちや
何よりよく晴れた秋の日の
陽気でうかれやすいので──
近道のような気がして
一本道を外れたら最後、
荒ぶる馬に運ばれて
またたくまに
時を超えたかのように──
見覚えのない場所にいたそうです。
いつか、体も小さな子供の頃に
通りがかったことがあるような?
そんなこともないような──
蛍では、堂々と景色を進む線路から、
その線路の上を華麗にわたる車体から──
ここがどこで
どうすれば知っている道に戻れるのかも
すっかりわかる麗ちゃんみたいな知恵もない。
線路のわきにはつねに水がある。
そこには深い藪があった。
そして、いたるところにクローバーがあり、
湿ったクローバーの甘い香りがあった。
思い浮かぶのは──誰の言葉だったかしら?
どこで読んで、誰と話した、古い本の話だっただろう?
いつか誰かがどこかで見た眺めのように
蛍はここで
違う世界にとらわれるか、
それとも──ときどきそういう人がいて
体験談を伝えるふりで大げさに語ったりするために
よく知る人のところへ戻っていったのだろうか。
情熱をこめて
迷い込んだ、変わった世界のお話をして
良い子で待っていたみんなの目をくるくるに回してあげられたら──
荷物は重くないけど、
少しかさばり──
蛍をどこかへ連れて行きます。
どこへ?