綿雪

『もっと早く』
もうすぐ三月です。
固いつぼみは
まだ冷たい風に震えているけれど、
ここ数日、
ユキが眠って
少し目を離したすきに
大きく育っているようです──
おうちではお雛様も飾って、
あとは春を待つだけ。
まだ寒いけど
体に気を付けて、
そうしていれば──
季節はもうすぐ変わっていく。
厚着を着込んで
襟の中で首をすくめて、
寒さと闘っていた時間も
もうあとわずか。
まだ全然──
お姉ちゃんたちの温かいお料理や、
飲み物を作るお手伝いも
そんなにしていない──
作り方も覚えていないのに、
ついに次の季節はやって来て
お庭の花壇に久しぶりにきれいな色が広がる日も、
そう遠くない──
みんなに守られて
弱いユキもどうやら冬を超えそうです。
お兄ちゃん、ユキを守ってくれてありがとう。
お姉ちゃんたちも──暖かくしてくれてありがとう──
春になったら、みんなでお外で遊びたいです。
編み物は今年の分は完成しないかもしれないけれど、
お手伝いもそんなにしていないけれど、
でも、春が来るんだから
明るい日なたの方へ──
行かなくちゃ。
お姉ちゃんたちは、お花見がしたいんだって。
お弁当を作って、
お庭に出て、
もう寒くない頃に──
春らしいことをしたいのだそうです。
冬の間に
みんなのためにしたかったこと、
覚えきれなかったことや、
やり残したことは
雪がとけた後のように
もう手に残らない──
お兄ちゃんたちが
ユキたちをあたためるのが
とってもすごくて
ユキ、知りたいことがもっとあったのに!
でも──
やがて三月になって、
いつか春が来て、
お弁当作りは
まもなくはかどる──
そんな日が来るのなら、
やっぱりうきうき、楽しみじゃないですか?
みんなで迎える春ですもの。
お弁当にはウインナーが入っていることがあるの──
たまごやきも。
花壇に、赤や黄色の花が咲くのと、どちらが早いと
お兄ちゃんは思いますか?
つぼみはおそらく。
もうまもなく身を震わせて
おびえながらゆっくり開くのだと思います──