バレンタイン

・あさひ
──
──?
む──
くんくん──
──あ!
おおっ!?
だあーにゃ
もっちゃ!
(わ!
 どこからも
 いいにおいがする──
 こんなにいいものは、
 あさひのため?
 もしかすると──
 あさひのだいすきな
 おにいちゃんのためかもしれないぞ。
 なぜか、そんなきがする。
 いや、まちがいない!
 だってこんなにいいにおいなんだもの──
 きまっている!)

・真璃
バレンタインの日は
いつもよく晴れて──
朝からずっと暖かく、
気持ちがうきうきして止まらないの。
少しだけ、雪も降ったり
曇るときがあるとしても──
それでも、
よく晴れたせいで
好きな人に──
心の内を伝えないではいられない。
いけないわね!
あの暖かく優しい日差しのせいよ──
え?
バレンタインだからって
別に毎年、そんなにいい天気ばかりじゃないだろうって?
それはそうね!
わりと気分の問題でそう見えるの!
それにしても、バレンタインは
準備の時間も本番みたいにどきどきするものだと言ったら──
あげたいチョコを考える日はすべて常夏だし、
大好きな人を思う日も
抱きしめられているような暖かい陽気の中──
一年中の全てが
よく晴れたすばらしい一日になる気がするわね!
恋をするっていいことね。
ハッピーバレンタン!

・吹雪
人はいずれ、
繰り返す毎日の中に
変化を見つける──
そして迎えた大きな変化の一部が
一年に一度のバレンタインであるという人も
世の中にいるのかもしれません。
きのうまではチョコレートを探し、
あるいはチョコレートを作り、
相手に渡すチョコレートのことを考える日々が
太陽が昇った瞬間から
すっかり変わってしまったことを知る。
私は、手にしたこのチョコレートを
渡すことだけを
考えているのだと──
そういえば、普段は目につかなかった
チョコレート売り場で立ち止まり、
観察をするようになったのも
バレンタイン当日が来る前の、小さな変化と言えるかもしれません。
今日も私は、明らかな変化を迎えました。
愛によってすべてが変わっていくことを知ります。
このままでは
私は明日には、どうなってしまうのだろうか──

・虹子
おいしいものは
チョコレート。
うれしいものは
にじこのりょうていっぱい
あつまったチョコレート。
おやつにもらって
とっておいたり──
おなかがすいている子と
いっしょにたべたり、
まいにちたのしく
すごしていると
いつのまにか──
こんなにたくさんあつまっている。
いちねんかん
おにいちゃんと、
にじこはいっしょに
たくさんチョコレートをたべたなあ!
そうして──
まだまだたくさん
たからばこにとっておいた
おにいちゃんとたべたいチョコレート。
こんなに──たくさん!
きょうも、
いっしょにたべたいんだよ。

・春風
まるで、この日のために
生まれたかのように
幸せな気持ちがあふれ出して
世界中に広がり、
すべて包み込む──
春風のまわりの全部が
バレンタインの色に染まっていくようです。
少し気合を入れて作った
手の込んだチョコレートであったり、
聞いてもらいたい愛の告白であったり、
激しく止まらない胸の高鳴りであったり──
ああ──今日を迎えて
あなたと同じ時間を過ごせているだけで、
もう春風は喜びにすべての力を使い果たして
夜には儚く消えてしまうのかもしれない──
この世界の何もかもが、
今この瞬間のために
春風を連れて来たようだもの。
どうか──全ての思いを叶えて
消えてしまわないように
もう少し強く、手を握っていてくれませんか──
そのせいで、ますます世界が
春風の愛の色に染まっていってしまうとしても
ちっともぜんぜんかまわないと思います!

・霙
すべては儚く──
形をとるものも、見えない何かも
ひとつ残らず虚空に消えて
戻ることはない──
うまく作れたチョコレートも、
失敗した苦い味も
そこに乗せた私たちのどんな思いだって
いずれは運命に従うまま──消え去るのみ。
それなのに、なぜひとときも心を変えることなく
愛情を告げることを選び、
心からの贈り物を届けたいと願うのか──
どうやら──少しくらい失敗しても
すぐに恥ずかしい記憶が無に飲まれていくのがいいのかな?
そのわりには、好きな人と一緒に過ごした記憶や
伝えたいと願った思いはなかなか消えないんだ。
私たちがふわふわ頼りなく浮かぶこの広大な宇宙で言えば、
うれしかった記憶ばかりがまるで星や銀河の光のように、
いつかなくなるとしても
ずいぶん長持ちして、そばにいて
暖かく心強く、儚い私を支える力になるような気にさせる──
遠い未来に消える思いでありながらも──
今年も家の中はにぎやかだ。
自分たちのできる精一杯のバレンタインデーを届けたいと
試行錯誤の途中だ。
またバレンタインデーがやってきたんだな。

・夕凪
夕凪だよ!
マホウ使いの子孫は
大切なバレンタインに何のマホウを見つけるの?
やっぱり勇気を出して
抑えきれない気持ちを伝える力が
いちばんだ!
でも、せっかくなら
あげるつもりのチョコレートをおいしく!
作り上げることができたならなー。
せっかく
おいしくできたなら
お兄ちゃんと一緒に食べられたらもっといいよね。
おいしいねーって言えたらね。
できるかどうかわからないことが、
もし、本当にできて
願いが叶ったらいいのにねって
一年に一度、
毎年バレンタインが来たら思ってる──
ついでに、伝えたいことを言えて
もしも気持ちが届いて
お兄ちゃんもうれしかったら
すごくいいと思わない?
難しいことだってできたら──とってもいいなって思うよ!

・綿雪
わくわくして、
ときめいて──
そんな気持ちを伝えるチャンスが
年に一度だけ、
やってくるのだとしたら
もう何もしないではいられない。
本当にできるかどうかは
やっていないとわからないけれど、
少し恥ずかしい気持ちも
うまくできるか不安なのも──
なぜだか、いつも怖がりのユキを止めることはできない。
ほてった頬と
どきどきする胸は、
ただ──今しかないかもしれないんだから
がんばろうって言ってる。
お兄ちゃん──ユキは何も上手にできるか
自信はないのだけれど、
それでも今年は手作りチョコレートを作れたの。
気持ちを込めたの──
お兄ちゃんのおかげでできたのだと思うんです。
どうか、受け取ってください。

・さくら
ぶきようで
くいしんぼう。
ほんとうにできあがる?
さくらも作るチョコレート。
おねえちゃんが型にながしてくれたのを
さくら、がんばって
しぼり器で字をかいて、
お兄ちゃんへって
かいてみたの。
へただけど。
くすん──
よめるかな?
おいしそう?
てづくりって
とってもたいへんで
おりょうりじょうずなおねえちゃんでも
おおあわてであたふたするの。
でも──おいしくたべてくれるんだって。
こっちの、お兄ちゃんへの字があるのがてづくり。
こっち──だっけ。
なんとか──字がよめるきがする!
お兄ちゃん、さくらのチョコ──
おいしくたべられそう?

立夏
この時が来たーっ!
はたして、本当に
おいしくできたのか?
お姉ちゃんに相談して
今日のおしゃれを選んで、
お姉ちゃんに相談して
不器用でもラッピングをできた、
いっぱい教わって作った
手作りチョコ──
本当にできるのか、
毎年始める前は不安と緊張で
どきどきして、
それに──手渡す時には
きっとオニーチャンのことだから
優しくもらってくれると
わかっていても、
大きくなりはじめたらもう止まらない胸の鼓動──
こんなに
がんばったのに
なんで不安なのかなあ?

・小雨
みんな、がんばって
チョコを作ったのを
小雨は見ていました。
少しだけ作り方を教えてあげたり、
お手伝いをしたり、
あんまり役に立てなかったりしたけど──
みんなのことを小雨は見ていたの。
よくできたとうれしそうな子や、
ちょっと不安そうにしている子──
みんな、お兄ちゃんに喜んでもらえたら
とってもうれしいと小雨は思います。
小雨は──
そんなにたくさんのことはできないけれど、
やっぱりお姉ちゃんに助けてもらいながら
なんとか作った分のチョコが
今年の小雨のせいいっぱい。
お兄ちゃんにおいしいと喜んでほしくて作りました。
願いが叶えばいいけれど──

・星花
自分にできる以上のことは
誰にもなかなかできないし、
作れそうな手順のなるべく簡単なチョコレートで
まずははじめてみよう!
みんな、そう言うけれど──
自分のことになると
みんながみんな、
なかなかそうはいかなくなるの。
不思議ですね。
できないとわかっているのに
がんばっている子がいるの──
星花は、今年はそんなに無理はしていないほうです。
でも──自分でそう思っているだけで
みんなからすれば
ちょっといつもの年よりもいいものができたんじゃない?
って、元気づけてもらっている。
あとは、お兄ちゃんに渡す勇気だけです。
どうか──
そこまですごくおいしいと言ってもらえるほどでもないけれど、
食べてくれたらきっとうれしいんです!

・ヒカル
今年もようやくチョコを作った。
小さな妹たちから見れば、
成長して大人になったらなんでもできるみたいに
見えるようだけど、
実際に自分が少しだけ大きくなって
そこそこの人生経験のしっぽみたいなのを得てみると、
なんのことはない、
できないことの方が多いくらい。
いや、むしろ──
大切なことが何一つできないことに気付くくらい。
そんな時に力になるのは、
何も知らないのにただやってみたいというだけで行動する
小さな子供たちの姿だけ。
ほら──またどこかで何かに挑戦して
やっぱり失敗したらしい悲鳴が聞こえてくる。
私たちにできないことばかりが得意で、
元気をくれるのはいつも、私たちの知らない何かすごいことを知っているあの子たち。
そのおかげで今年もバレンタインの日を過ごしている──
そんな気持ちをわかってくれるだろうか。
オマエならもしかしたら──と思う。

・麗
──誰が何といおうとも、
人間の体を形作るのは
口に入れる日々の食事で、
好き嫌いがあっても
何でもよく食べる子でも変わらず、
そうやって人は作られていく──
だとすれば、
たまに栄養のあるチョコレートを手作りして
贈ることも
なんでもない──
いつもの日常の延長。
それはまるで
遠くまでどこまでも果てしなく続く軌条が
ごく小さくて大切な一つの手順の、数えきれない積み重ねで
伸びていくようなもの──
そう考えると、みんなの毎年楽しみにしている
贈り物の習慣も不自然なことは何もない──
なんて、そんなことは全然ないわよ!
そもそも手作りを贈る理由が何一つないっていうの!
私は──みんなが無理に言うから仕方なく作っただけ。
勘違いしないで!
でも、レールが続くように
家族として毎日を過ごしているのは確かだわ。
いろいろ大変なことばかりだけど──家族だから
こんな日があるのも仕方ないわね。
一年中、一度もまるっきり感謝をしたことがないと言ったら
嘘になる気もするんだから──

・氷柱
あら、
これは──
私の手の中に
なぜかひとつの
手作りチョコレート。
おいしそうな──
いや、そんなにおいしそうでもないけど。
いま、なんだかあまり
おなかがすいていないのよね。
それにひきかえ、下僕はいつも
みんなに頼られているようで
体力を使っているでしょう?
だから──別に──
これは、また別の話になるけれど
私だって何も感謝を知らないとか、
いつも迷惑をかけている──気がするとか、
何も気づかない人間じゃないと思うわ。
でも──言いたいことを伝えるのって、
誤解されることだってあったり
本心とは少し違って──後悔することもあるの。
そういうものなの。
いつか、そのときが来たら──
私がもう少しうまく
言葉を──気持ちを、思い通りに
伝えたい人に伝えられるようになったら。
そんな瞬間は未来永劫決してやってこないのかもしれないけど、
でも、もし何かの偶然でそういうことがあるとするなら。
今は──やがて、夢みたいな話が本当になることを信じて
何も言わずに黙って、それともごまかして渡して、
そして──黙って受け取ってもらうのがお互い一番だと思うの。
いつか──いつか、無理だと思っていた
その時が──
まあ、それだけ、
家の中は暖かいわ──誰も風邪を引いたりなんてしないように。
チョコが溶ける前に──もったいないからあなたが食べたらいいわ。
チョコレートが好きだって言ってたわよね──そういうことにしておきなさい。

・青空
みんな
みんな
がんばった!
あのねー、
おんなのこは
いつもいっしょうけんめい
なんだって!
しぬきだって!
きょう、このひに
がんばらなかったら
むねがばくはつして
しぬかも!
ことわられたら──
つらくてしぬかも!
おいしいちょこを
つくれなかったら。
よろこんでもらえなかったら。
すぐしぬ!
だっておんなのこは
いつもちからいっぱい。
ぜんぶぜんぶが
いのちがけ。
そうでなければ
こいするおとめは
やっていられない!
ええー、たいへんだねえ。
そら、ちょこたべよっと。
おにいちゃんにも
あげてね、
はんぶんこしてねってもらったの。
ちょこちょこ
おいしいね。
いっしょにたべてうれしいー!
とびはねて
うちゅうまでいくまで
よろこぶよ!

・海晴
切なかったり
大変だったり
でも、どうしても
夢中だったりして──
自分を抑えるのが難しい。
人の気持ちは
どれも少なからず
そういうもの──
大人になったら忘れかけてしまうけれど、
たまに思い出すのよね。
だって──ごまかせないくらい
大切な人がいるって、
あるかもしれないでしょ?
どうしても、本心を隠すなんて
器用なことが何一つ
できなくなってしまうほど
大事な気持ちが
胸の中で育っているって──あるでしょ?
伝えるのは難しいかもしれないし、
技術も経験も天の助けも私には足りないかもしれない。
できないかもしれない。
好きな人に好きだと──それだけを届けることが
どれだけ難しいかわからない。
でも、挑戦したい気持ちが
何があっても止まらないというのなら、
せめて──年に一度のバレンタインだけは、
ちょっと大げさになってしまうのも大目に見てね。
私はキミのことが好き。
世界で何よりもキミを愛している。
とても大切な人──
キミがいてくれてうれしい。
それを伝える力がちっともないとしても、
私は伝えようと思った──
それしかできないと思った。
今年のチョコは、うまくできたかな?
来年も、またその次の年も──キミにあげたいな。
今日より、もう少し──上手に作れたらいいな。

・蛍
バレンタインデーがやってきました。
蛍はお料理が好きです。
チョコレートだって、いつでも作っているし
難しいお料理にもたくさん挑戦してきた。
きっと今年も
おいしいものが作れるし、
お兄ちゃんに渡す時だって
自信まんまんで、胸を張るんだから。
でも──
本当にそう?
本当にお兄ちゃんに喜んでもらえる?
蛍の一番おいしいチョコを作って渡せる?
蛍の──
世界一お兄ちゃんを思う気持ちを伝えられるような、
世界一のチョコが本当に作れるの?
本当に──自信をもって渡せるの?
お兄ちゃん。
今年も、みんなチョコを作るの
がんばっていましたね。
上手な子も、そうでない子も、
気持ちを素直に伝えようとする子も
恥ずかしがり屋も
誰も逃げないで──怖くないわけがないのにすごいね。
蛍はお料理が得意です。
それは、おうちの中の話で
世間から見れば自慢するほどの腕前でもないけれど、
チョコレートをおいしく作ることならできるの。
だから──
だから怖がる必要なんてないのに
どうしてなんだろう?
お兄ちゃん、蛍はまだ何も知らないみたいに
生まれたばかりのように不思議そうにしているよ。
お兄ちゃん──お兄ちゃんは、わかるのかな?
何もできないみたいに震えて──何もわからない蛍は
お兄ちゃんのことを思うと大変で、
お兄ちゃんのことを思うと──あたたかい。
今日はバレンタインデーです。
泣いても笑っても──そして逃げることも蛍はしない。
お兄ちゃん、お兄ちゃん。
まだ寒いけど、蛍のチョコレートを食べて元気でいてね。
たぶん──おいしくできたと思います。

・観月
楽しい日は
やがて、終わりを迎えるもの。
年に一度のお祭りは
また来年を迎えるまでのお楽しみ。
最近始まったらしいみんなの習慣の
バレンタインデーも──
昔からのお祭りと何も変わらないかのように
楽しい一日を過ごし、
また来年。
さみしいものじゃ。
それでも、
ずっと古いお祭りでさえも
長く続き
今に伝えられ──
人を楽しませているのだから、
来年まで待つことに
何の不安があろうか。
また──愛しい人と過ごしたい。
楽しい時を。
喜びながら──過ごすのじゃ。
でも、兄じゃには
その前に。
なんだか大変なことがあるようじゃな。
わらわの占いにもまた
来月あたりに兄じゃの一生懸命に走り回る日が
やってくると出ている。
男の子はいつだって大変じゃ。
そんな兄じゃが──わらわの家族は、みんな大好きなのじゃ。
兄じゃにも楽しい日であったかの?
では、また来年じゃ──きっとまた、大さわぎの一日になるであろう。