立夏

『春を愛する人
ああ!
しまった──
春生まれで、
陽気な気配に敏感。
家族で一番
鼻が利く立夏
そのうち春が近づいたら
みんなに教えてあげるヨって
はしゃいでいたのに──
くんくん。
冷たい空気。
霜を踏む足音もしない
山のほうの静けさ──
これはどうしても、
まだまだ寒い季節は
続く様子だ。
しかたない!
春を待つのは
いったんやめにして、
今のうちに楽しめることを
しておかないといけないな。
やがて芽を出す種を
植木鉢で育てたり──
冬のスイーツを選んだり、
重ね着でおしゃれをしたり──
お風呂でゆっくりして
気長に構えていないと、
まだどこにも見つからない
待ち遠しい季節は
ずーっと先みたいなんだもの。
せめて、遠くから
かすかでもいいから
暖かさが近づいてくる音でもすれば
話は違うかもしれないのにね。
そう、たとえば
どこかで聞こえる
春の鳥を思わせるあのさえずり──
──!?
これだ!?
き、きこえた
気がしたような──
ほんのかすかな
気のせいでもあったような──
いや、立夏の耳が
間違えるわけがない!
やさしい花の色と
暖かい日差しと
愛の言葉があふれる季節が近づくのを
他の誰でもない、
春を愛する立夏が見つけたのだから!
うーん──でもやっぱり、
絶対確実かと言われると自信は揺らぐ──
もうすぐ、ためらいなく
冬物の上着をすっぽーんと脱ぎ捨てる時が来たら、
まずオニーチャンに
一番に教えに行くからね。
その日は近い予感が何となくしている──
そうだったらいいな!
本当に──みんなで身を寄せ合って
ぽかぽかの日を、とっても楽しみに待っているの。