観月

『夜の声』
星明かりに照らされる
冷たい闇の向こうから、
聞こえてくる叫び声──
風に乗って運ばれ
身を凍らせる
あの声こそ、
夜をすみかとするものたちの
侵略に違いない。
寒さのために
食べ物もなく、
身を休める場所もない
異形の獣が、
明かりを見つけて
やってきては──
鋭い牙で
柔らかな子供を頭からばりばり
食べてしまったりすると
古くからのお話にあるのも
この季節のことじゃ──
風におびえる幼子が
兄じゃの寝床へ助けを求めて飛び込んでくるのも
ゆえがないことではない。
獲物を探す荒い息づかいも
夢に見た幻ばかりとは
言い切れないのかも──
それに、形に見えるものだけではなく
寒さと飢えに震える
目に映らない鬼たちが
こっそり化けては、
蔵の中のたくわえをむさぼりつくすと
昔から言われるのも今の季節じゃ!
たいへんなことじゃの──
もしかすると、福々しい笑顔で
もりもりミルクを飲み干すあさひだって、
いつのまにか何かが入れ替わったあとではないか
定かではない──
うれしそうによく飲むし、
なにしろこんなに
愛らしいときたら──
魔性の怖ろしさを感じるのも
自然であろう。
よしよし、
早く大きくなって
悪いものなど全部追い返してしまうのだぞ。
むっ!
兄じゃも──
今日は──
そのお顔は、もしや──
そうか!
すこし前髪が伸びたせいで
印象が違うの。
海晴姉に頼んで、切り揃えてもらうとよいぞ。
清潔さも邪を退ける秘訣なのじゃ。
兄じゃほどの者には、よこしまな気は入り込まぬと思うが──
さわやかなほうがかっこいいぞ!