春風

『あのね』
今日もお腹の底から笑って
楽しくてたまらない
あなたと過ごす日々。
家族と一緒の毎日。
だけどこんなに
幸せで、
うれしくてたまらないのに
あなたがそばにいる
ただそれだけで──
なぜかぽつりと
頬を伝うしずく。
私があなたに伝えたいことは
たくさんあるのに──
私は──
むかし、どこかの場所で
知らない誰かが
今ではわからないきっかけによって
世界で最初に言葉を作り出しました。
それにあこがれた人たちが
美しいことを──
すばらしいことを
積み重ねてきたといいます。
ときどきは
歌にして──
ときどきは詩に託して。
またあるときは
ノートの切れ端に隠すようにして描いた落書きで
人間はいつも、
大切なことを伝えようとしたといいます。
そんなすべての人の
全ての積み重ねが
今日のあなたの何気ない
ふつうのただ一言を
私に伝えるためだけに
存在していたと私が言ったなら
あなたは──どんな顔をするでしょう。
神様が、今日の私が経験した一瞬のためだけに
この世界を作り上げたのだと言ったなら。
本当はそんなことがあるわけないってわかっている。
全部私の身勝手な思い込みだと知っている。
でも、そんなふうに
勝手なことを心から信じられる瞬間を
あなたのおかげで何度も重ねていると言ったら
あなたは──
本当は、いつももっと
たくさんのことを伝えたいと思っているんです。
あなたがいてくれてどんなに感謝しているか──
あなたと出会えた喜びがどれほど大きくて
今も膨らみ続けていることとか──
当たり前のように過ごしているあなたの
重ねてきたすべてが
どれだけ私を幸せにしているのかと
わかってほしい──
この気持ちを伝えたい。
だけど、いつもあなたへ届ける言葉は
ただひとつだけ、
ありがとう──と
それしか思いつかないんです。
もっと言いたい気持ちはたくさんあるのに、
いつかそれを伝えられる日は来るのでしょうか。
それとも先に
いつか二人のどちらかが目を閉じる日は──来るのでしょうか。
今日も、あなたに伝える言葉は
いつもと同じありがとう。
いつもと変わらない感謝の気持ち。
もっと──どうか、もっとたくさん
私のそばにいて
ありがとうと言える瞬間をたくさんください。
ありがとう──あなたと出会えて私は本当にうれしいんです。