真璃

『パンの輝き』
こうして雨の降るお庭を
部屋の中から眺める時、
アンニュイになるの──
そういえば昔は
あんなことも──言ったっけ。
でも、梅雨で湿気が多い今は──
カビるとよくないって
パンをたくさん買い込んでおくことがなくなって
気が付くの。
ケーキではかわりができない
パンの良さもあるんだって──
あの頃から、フェルゼンはパンが好きで
マリーはなにかと言えば
ケーキ派。
見た目のかわいさも──そして
ワクワクのアニバーサリー感も、
誰かと一緒に食べる喜びも──
ケーキがいいんだってマリーは伝えるの。
毎日あなたと
語り合っていたあの日々を
忘れない──
えっ?
あの歴史に残る有名なセリフは
そういう意味じゃないって?
フフ──
一つの名言が世に語られる裏には、
何百も──何千も
歴史的でなく過ごした日々と
どこにも残らない──
さりげなく交わされた会話があるものよ。
フェルゼンとマリーで
これからだって誰にも秘密の時間を重ねましょうね。
歴史家に知られないように、
誰にも暴かれることのない
ふたりの部屋──
でも、もしも新しくて楽しいお話が
また人々に聞かれてしまったら
どうしようかしら──
女の子は誰でもお姫様だっていうから
もう女王様でないマリーも──こんなことを考えるのかしら?
その時に残る言葉は、
たとえば今夜だったら
キャベツがないなら
もやしたっぷりの焼きそばを食べればいいじゃない!
とかね!
そこには隠し味に
家計を預かりお料理も上手な春風お姉ちゃまの
愛情がたっぷりで──
さらにテーブルには明るくていい子ばっかりの家族が
いつもうるさくって
仕方がないの。
なんてね。
誰かに聞かれていたりしたら──たーいへんだったわ!