『静かな夜』
昼は眠り
夜は遊ぶ──
人類が暗闇の支配に捕らわれ続けてきた
長い歴史が
明るい人口の光と
暖かに過ごせる発明のおかげで
ついに辿り着いた。
ずっと長い間求め続けてきた
安楽に過ごせる夜だ──
眠らないまぶしさは
人の発展の証。
ならばどうしてこの時を
甘受しないでいられようか──
私は、昔から誰もが望んだ夢が
叶えられる瞬間にいるのだ。
少しくらいまったりと
昼寝をしすぎたところで──
夜は何者も拒絶しない。
いいだろう。
未知なる本のページを繰るか、
繕い物に没頭するか
解きかけのパズルと向き合うか。
それともただ──
とりとめもない考え事を続けるだけでも
長い夜の恩恵にあずかれるというもの。
この豊かな時間こそ
生まれて消えるつかの間の命の
確かな喜び──
人類の進歩は素晴らしいな。
次の夢へ向かって飛び立つ前の宿り木だ。
だが、せっかくの
眠らない夜を過ごしているのに
考えてしまう。
人が進み続けていることの証明が
夜の明かりであるならば、
ここまでの歩みを共にした
怖れや冷たさや──
夜を克服しようとして
叶えられなかった
光やまぶしさとは別の夢は
今はここにないのだろうか?
闇と過ごす時間を
わずかな星明かりに頼って乗り越えた
たくましい想像力は
この身のどこにもないと──果たして言い切れるだろうか。
地を覆う暗闇に隔てられ会えない夜を過ごし
顔を見ることもできない人を
胸焦がして思い浮かべることなんて
全ての人は忘れてしまった過去のことだと
言い切れるだろうか──
夜の明かりがもたらす喜びから目を背けるのも
健全ではない気がするのと似て──
真っ暗で押しつぶされそうな夜に
昔、明かりがなかった頃の人と同じように物を思うのだって
楽しいことで──
今夜は立夏が夜更かしに付き合ってくれなかった。
一人だけで過ごす寂しさも、ときどき思う愛しい顔も
ぜんぶ私だけのもの。
ひとりじめだ──