海晴

『リッチな時間』
疲れて帰ってきても
みんなに弱った顔は
見せたくない!
──と言いたいけど
ママのように人と人の間を駆け抜け
休んでいる姿すら見せないのに
時間が空いたらトレーニングウェアで
汗を流している──
なんてことになると
まだ社会人一年生の海晴には
とうてい届く気がしない遠すぎる目標。
いえ、本当に
人間なのだろうか?
あのタフさは──
とまで疑ってしまうほど。
私ができることと言えば
休憩時間のあいだに
座ったままで軽く体を動かすストレッチ、
指マッサージを試したり
家族の写真を見つめ
大好きな人に会いたくて
優しい笑顔を思い浮かべたり──
そう簡単に疲れは取れないものだけど
でも、一番はやっぱり
家に帰ってきて
自分の好きな時間を過ごすことかな──
ほら、かわいい妹たちに囲まれていると
虫を捕まえた子が
私の小さい頃の虫取りスポットを尋ねに来たり
洗濯物を頑張ってたたむところを
見せてくれたり、
庭の草むしりの相談だって
長く経験した私のところに持ち込まれることもあるし、
気が付いたらなぜか
山積みになったさやえんどうのすじを取って
日は暮れていく。
まあ──
これも家族といる時間って感じね。
もうどんどん遠慮なく
なんでもやってきなさい!
頼れるお姉ちゃんは
家で過ごしています──
という感じ。
えっ?
好きなおやつを買っていいから
おつかいに行ってきてほしい?
うーん、おつかい──かあ。
……
野菜の買い出しならあっちのスーパーが品が良くてお安いのが
私がキッチンの主だった頃の
役立つ知恵だったんだけど
せっかく任されたなら
いいところを見せて
驚かせてしまおうか?
でも、ちょっと遠くなるな──
ええい!
たかがおつかい!
やがては大家族を支える
ママみたいな鉄人を目指すことを思えば
この程度、
なんてことない!
見ていてね、弟クン。
今日の晩ごはんは
海晴のお使いでたっぷり大盛りにして
喜ばせてあげたいんだから──