観月

『ころがるおむすび』
うーむ、こまった。
みんなで食べようと思ってとっておいた
あのおいしい
おせんべいの袋──
見た目だけでも
きれいな文字で
かわいくて
すぐに開けたくなるところを
がまんしていたのに
どこにしまったか
思い出せなくなってしまったのじゃ!
手が届く範囲を探しても
出てくるのはおかしの空き箱ばかり。
こんなにも
心から悲しいのは
あの時以来かもしれぬ。
新緑がまぶしい
初夏の陽気、
梅雨が来る前に
みんなで楽しいお出かけができたらと
お弁当をもって
歩いた裏山。
汗をかき
助け合い
ようやくたどり着いた見晴らしの良い場所で
お弁当を広げた
あの時──
わらわの手から
おむすびがころがり落ちて行ってしまったのじゃ。
おいかけても
おいかけても
坂道をゆくおむすびには追いつけぬ。
思い出すだけで悲しくなるのじゃ──
きっとやさしい
梅干しの味であったろうに。
もうあんな気持ちになることなど
繰り返してはならぬ!
とは言っても
季節はついに
雨降りが続く日々──
たちまちしけって
かびてしまうまで
残された時間はあとわずか。
おせんべいを
救い出さねば!
おいしいうちに!
幸いにも、今日はよく晴れ
お部屋の片付けもはかどった。
こんなお天気が
せめてあと──三日だけでもあれば
心当たりを探しきれそうだが
果たして願いは叶うであろうか。
いや!
やらねばならぬ!
わらわのとっときのおせんべいは
とてもよい味に決まっている。
見つけ出せれば──
みんなはいつにもましてにっこにこじゃ!
がんばって探すのを、
良い子で待っておるのじゃぞ。