『始原』
春が来た。
気候も良く
新鮮な気持ちになり──
新しい挑戦を始める子が
増える時期だ。
新しい種を
花壇に撒いたり
新しい本を探したり、
あらゆる始まりを誘う
強いエネルギーに満ちている。
今まで聞いたことのない
謎の悲鳴や
不思議な言葉のやりとり、
そして
大きな歓声──
家の中のどこもかしこも
まだ見ぬ出会いの喜びが
飛び交っているようだ。
全てが始まったという
宇宙が膨らみだすビッグバンの瞬間も
こんな様子だったのだろうか?
多くの宇宙論
はじまりがあると仮定した場合は、
それは非常な高温高密度であったと
考えているから──
どこか目の前の景色に
似ているな。
やはりここからはじまるのか?
それに昔の地球で
最初の生命が生まれた時も
おそらくは強烈な自然現象が
天も地もひっくりかえすように──
そう、まさにあの
今聞こえてきた夕凪の叫びのような
世界だったのだろう。
裁縫を教わると言っていたからな。
針仕事は見た目以上に大変だ──
私もついまわりにつられて
何か始めてもいいのかな?
はじまりの季節にふさわしい
パワフルな趣味の一つでも──
と考えている。
でも、今のところは
救急箱を運んで助ける
新たな白衣の天使が生まれるということにしよう。
ここにあるのが救急箱だ。
中身もさっき確認しておいた。
あとはお茶の時間を楽しむ私が
重い腰を上げる強い力だ──
春にはもうあとちょっと
そのあふれる力を
分けてもらう場面がありそうだな。