海晴

『長い夜』
夕暮れになってしまえば
木の陰から、
建物の角から、
厚い雲が落とす暗がりから──
ゆっくりと広がる
夜の色が
まるでこちらに手を伸ばしているようで
急いでおうちに逃げ込むの。
ここは家族がいるところだもの。
何があっても安心だってわかるわ──
それにしても、子供の想像力って
すごいものね。
こうして大人になると
何とも思わない景色が。
夜の暗さから逃げて走って来る子供たちを抱きかかえると
確かにそんなふうに
怖ろしく見えたのも思い出す。
長くて暗い夜を過ごす冬は
いつも心細い夕暮れを迎えていたものだけど、
でもそんな冬の毎日だったから
ケーキの上に灯るオレンジ色が大きく見えたクリスマス、
みんなで除夜の鐘をきいた静かな年越し、
近づく春を呼び込もうとするようなにぎやかな豆まきの日──
大好きな人と寄り添いあって過ごす
温かな夜の時間があったと思う──
くっつくくらいに近くでいたのは
冬の寒さと心細さを言い訳にしたわけでは
ないんだけど──
もうそろそろ、子供たちと遊んで
すぐ汗をかく春がやって来ると
嫌がられてしまって
そんなにそばにいることは
できなくなってしまうのかな。
でも、お山の花のつぼみが
ほころびはじめる景色を
並んで眺めるのは
これはこれで楽しいよね。
日本の春が来たら
少しくらいはお花見をしないともったいない!
人ごみに出ていくのは難しいから
庭にテーブルを並べてって感じになりそうね。
そろそろお花見弁当を作る練習も始める頃。
みんなにおいしいものを食べてもらう楽しみは
年に一度くらいは経験しておかなくちゃ。
玄人はだしの春風ちゃんや蛍ちゃんに任せっきりで
久しぶりに振るう自慢の技が
なまっていないといいけれど──
キミはおにぎりとサンドイッチならどっちがいい?
好きなおかずのリクエストはある?
恥ずかしかったら──
まだ寒いから
もう少し近づいて
こっそり伝えてもいいんだよ。