『おでん天国』
日の沈んだ夜の空気が
冷たく鋭く、
体の内側を凍らせていく。
私たちの過ごした一年がまた終焉を知るとき、
闇が侵食する領域の多い季節は
頭からつま先からバリバリと
人を噛み砕きにかかるようだ。
抵抗する力が必要だ──
暖かく甘く
力の源になるものがなくてはいけない──
というわけで冬だ。
今日はキッチンに
大根が多く運び込まれたぞ。
栄養素は──後で調べればわかるだろう。
おいしさを引き出す調理法──詳しい人に任せるのが一番だな。
味見係──そう、これこそ
どれだけいても足りないくらいではないだろうか。
手伝うことはないか聞くたびに
いつも味を見てほしいと頼まれるのだ。
きっと重要な仕事──気を抜けない仕事だ。
霙お姉ちゃんはいつもおいしいおいしいしか言わない、とか
よだれを垂らして見ているからつい、なんて
そんな声も聞く。
世の中にはいろいろな意見があるものな──
こういう状態を
科学はうまく説明してカオスと呼ぶのだ。
いい言葉だ──深みもあり哲学もある。
やはり、進歩とは常に日常に寄り添う
人間の味方だな──
今日の晩御飯は
私が味見をしたおでん!
おいしそうだろう。
体は温まるし──
手元の皿にとって
ゆっくり食べられるし、
それに鍋の中身がなくなっても
すぐに補給できる。
味の染み具合では後からおかわりをするほうが有利だ。
フフ──吹雪は猫舌を克服したいそうだが
18年の努力もいまだ実らず
焦って食べるのがすべてではないと答えを見つける人間だっている。
見ろ──
みんなが食べた後に残る
透き通った金色のだしを。
オマエはこれを見て何を思う?
うどん──
おじや──
醤油ラーメン──
無限大の可能性が広がる、とはつまり
科学的には宇宙に等しいとも言える。
言えるような気がちょっとしてくる。
そう思う人が世の中には一人くらいいるかもしれない──私のほかに。
輝くつゆを見つめて喜ぶ──
締めの一品が入る余地がある──
それが、みんなのことを見つめてゆっくり食べてもいい自由。
みんなといるということだ。
いい食卓だな──ごちそうさまにはまだ早すぎるほどに。