観月

『出会い』
マリー姉じゃは
マリー・アントワネットの生まれ変わり
なのだそうな。
思えば──
ころころ無邪気なわらわたちが
今よりもまだ幼かったあの日、
本棚のたくさんの本から
たった一冊の
あのフランス革命の本を手に取らなかったならば
マリー姉じゃは自身を巡る数奇な運命に
気が付くことなく──
あんなに堂々と明るく
愛らしい淑女になることも
なかったのだろうかと考えると
一冊の本に教わることの多さを
不思議に思うようじゃ。
星と夜空が出会うように
マリー姉じゃは良い本を見つけて
水が染み込むようにその内容を知り
溶け合うように
ちんちくりんな鼻水たらしと
愛に生きる女王がひとつになる──
まるでそうなると
最初から決められていたかのごとく。
そんな運命と出会えたことが
とても華がある!
うらやましい──
わらわも運命的な経験を
生きているうちに一度はしてみたいものじゃ!
ふふ。
ところで、人にはときどき
前世の記憶というものがあるようだが
いったいわらわの前世とはどのようなものであったかのう。
五歳の小娘が見つけ出すには
いくら修業を積んでもなかなかたどり着けそうにはない。
だが、もしも
前世のわらわも
今みたいにいたずら者で、
一途に思う人ともう一度出会いたいと思い、
そして、あるいは
何かの術でも
仕掛けたなら──
それならば、今こうして
兄じゃといられるのも不思議ではないと思うのだが
どうであろう。
兄じゃの前世の記憶と相談してみたとき──
なんだか、そんな気がすることはないか?
再び出会うと手に手を取って約束したか──
それとも罠にかけられたような記憶が。
どこかにおぼろげに残っているとしたら
それはわらわのしわざかもしれぬ。
きっと
今生でも──逃がしはせぬぞ。