『カンターレ
ん?
私の見たものが
間違いでないのであれば──
お菓子を両手に抱えて
ものすごい勢いで駆けて行ったのは
小さなさくらだったのでは
ないだろうか。
そして、その後を
猛烈なはいはいで駆け抜けたのは
あさひだったのだろう。
今の景色は
いったい──?
確かにホワイトデーという日に
私たちの大好きな人からたくさんの贈り物をもらって
みんなで分け合っているのは確かだが。
あんなにも早く、
そして迷いなく、
大胆に走りぬくさくらの姿を
この家で見たのは
いつ以来となるだろうか──
私たちの家に
たったひとりの長男となる者が初めてやってきた
あの日かな?
いや、さくらは最初の頃まだ少し
怖がっていたような記憶もあるな──
それにしてもあんなに急いで
いったいどこへ向かうつもりだったのか?
やっぱり──
お兄ちゃんと一緒に食べたいものなのかな?
私だってそんな気持ちになるものだからな──
あさひだってうきうきして後を追いかけるだろう。
あるいはあさひに追われて
逃げているところだったのかな?
それとも本当に
何かの幻を見たような気がする、ではなくて
ただ最近がんばっている様子のさくらが
今日も元気であればいいと願う──
私の心が生み出した錯覚だったりもするのか──
ありえるだろうか──
ぎりぎりありえるようだな──
こんなふうに笑いながら伝える話が
本物かウソなのかわからないのも面白いかもしれないし──
待てよ、どこまで本当なのかわからないなら
私たちの家に素敵な長男がやってきたおかげで
ホワイトデーという楽しみがあって
こんなにも幸福に暮らしているというのが
ウソのような話かもしれない。
あまりに楽しくて
本当にあることなのかどうかわからなくなるような──
うーん、これは一度
確かめてみなくてはならないという義務感が
たいへんに盛り上がってきたぞ。
どうやって確かめるか?
オマエが考えているまさにその通りだ。
そう、つまり
これからもずっと私たちと一緒にいて
まるで夢のような毎日を
現実だと思えるようになるまで
いつまでも過ごすこと──
私たちが──私がそうしたいと考えている通りに。
フフ──
それならできる、と誓える日が
はたしてオマエにもやってくるのかな?