立夏

エスケープ』
聞いてよ!
春風おねーちゃんったら
ひどい!
ちょっと学校帰りに
お菓子を食べすぎて
晩ごはんが食べられなくなっただけで
ぷりぷり怒るんだもん!
リッカだってわざとじゃないのに──
もー怒った!
だから決めた!
リッカは部屋から出て行って──
そして──
家出してやる!
オニーチャンの部屋に!
えっ、それは家出とは言わない?
細かいことはいーの!
お話を聞いてくれるオニーチャンがすき!
それでねー
リカもただ何にも考えないで
お菓子を食べていたわけじゃないんだヨ。
おいしいものの研究をして
最近の流行とかを知るには
自分の体で飛び込んでみるしかない!
今日はまだあんまりわからなかったけれど……
バレンタインまでにはなんとかしたい!
あっ、バレンタインって言っちゃった!
なんちゃって。
みんなももういろいろと考え始めているみたい。
吹雪ちゃんは未来を感じるチョコレートにしたいとか。
未来……
といえば
どこもかしこも電気が光っていたり
おじいちゃんもおばあちゃんも誰でも月の上に立ったり
透明なチューブの中を飛んだり
合言葉一つでテレビがついてドアが開き
食べたいものが勝手にテーブルに並ぶ
そんな世界。
もしかしたら──テレビも立体だったりするかも!
そしたらかわいいリッカたちのにぎやかなお泊り旅行が
世界初の2D美少女による3Dアニメーションに
なったりなんかしちゃったり!
何が起こるか想像もできない明日──
あーでもないこーでもないって感じでお話できると楽しいよね。
でもリカが考える
未来のチョコレートがひとつ
あるとしたら──
いつでもみんなと食べるとおいしくて
だから明日も一緒に食べようねって
変わらずいつでも
言ってるようなことカナ。
なんだか今と変わらない
みんなといることがうれしいだけの──
はっ、まさか、もしかして!
それを気付かせるための吹雪ちゃんのとんちだった!?
なんちゃってー。
いろいろアイデアは思いついたんだけど
乙女の勝負、バレンタインに
あげられるチョコレートはたったひとつ。
何が一番喜んでもらえるか
まだまだアイデアが足りないような気もするし
オニーチャンの好みも見つけ出さないといけない。
いちばん好きなものってなーに?
やっぱり明るく楽しい未来?
しっかりしてできのいい妹?
お料理上手な女の子?
それともシンプルに答えは一つで
心を込めた愛情だったらいいのにな。
もーっと近くに寄って
よく観察できたらいいな!
あれっ、こんなところに
リカのパジャマが。
ははあ、さてはさっきの小雨ちゃんの差し入れは!
なんちゃって……小雨ちゃんいつもアリガトー。
お部屋に帰ってもお風呂でも
どこに行ってもなかなか素直に慣れない気がする
たまーにあるような複雑な感じの日。
心が落ち着く
いちばん好きな人の近くに
ずーっといつも
いつまでも──
いられたらな。
急な思いつきでやってきて
おみやげはないけど許してくれる?