ヒカル

『バトン』
優勝回数、勝ち星の数。
偉大な記録を残し
長い歴史に名前を刻むことで
角界を盛り上げる横綱がいるように──
四人の横綱が並んだ激戦の時代に
ライバルたちとの名勝負を語り合いながら
引退の日を迎えた横綱
相撲ファンたちが見送る──
そんなお別れのときもある。
稀勢の里関、お疲れ様でした。
そして稀勢の里関への
最後の贈り物をするかのような
気迫をぶつけた高安関の一番。
悲しい知らせが届いた日にも
今日も見ごたえが合って盛り上がって──
楽しみが多い土俵は続いている。
一人のヒーローが去ることで
何もかも終わるわけではないということは
稽古を積み重ね、日々を積み重ね
厳しい勝ち負けの世界にいた者たちが
私たちよりもよく知っている。
見るものを魅了する強さ、
強い力士を相手にするからこそ生まれる強さを
思い出す私たちよりも
間近でその強さを見てきて
体全部で圧倒されてきたはずの力士たちが
本当は知っているみたいだ。
その強さが立ち去った後の
戦場にも──
熱い戦いは繰り返される。
これからもヒーローが生まれる勝負の歴史は
強さの記憶を残していった
彼らがいたおかげで──
続いていくんだと。
いい一番を見ると
ついはりきってしまうのは
小さい子供でも大人でも変わらないし
もしかしたらあの体の大きい力士の人たちも
強い人のすごさを見て憧れて
強くなっていったのかなあって
今日もお相撲が大はやりの家の中を見ながら
なんとなく考えたりする。
これは私たちが
強くて超えられない壁になって
私たちが負けたくないと悔しがったお姉ちゃんたちみたいに
なってあげたらいいのだろうか。
私はまだ迷っている。
どう思う?
小さい子と遊んであげるのはいいけど
もっと強い相手を探して
負けたくないと思いたいなって──
本当は自分こそが
本気で戦える相手に出会いたいんだって気分に
なってきたりしないか?
自分の強さも弱さも教えてくれる熱い戦いに
子供たちだけが挑んでいけるなんて
いくら女の子が多い家でも
そんなうらやましいだけの話しかないわけじゃあないはずだ!