『六花』
わらわの小さな手のひらへ
兄じゃの大きな肩へ
厚い雲の下にある全てに
白く咲いた雪の花は
ひらひらと落ちてゆく。
わずかの時間だけ
ひらいた跡を残したがり
冬の震える日差しに消えてゆくまで
小さな姿がとどまってくれる
初雪の日。
残念ながら兄じゃはお外へお買い物。
わらわの仕事は
家にいてよい子でお留守番をすることじゃ。
離れていてもこの街で
同じ色の雪を見つけて
きっと寒い思いをしておるだろうと
みんなで窓のそばに集まり
まるで見えているみたいに
想像した兄じゃの様子を教えあう。
昨日になって助っ人を買って出た海晴姉じゃが
ママから借りてきた車。
冬用タイヤもしっかり確認。
いざという時のチェーンの巻き方も練習!
と、気合を入れていたが
結局降るか降らぬか
降っても積もらないのではなかろうかという玉虫色の予報を受け
お留守番のみんなに安全運転を約束させられて
海晴姉じゃの車をお見送りをしたのが
まだ一刻も経たないくらい前のこと。
誰かの帰りを待つ時間とは
いつも引き伸ばされたように長く
なんだか限りなくどこまでも伸びるように感じてしまうもの。
えんえん伸ばしても千切れないのは
そういうおばけくらいのもので
しかもあやつは伸びたと思わせて実は術を使っておるのじゃ。
それをふまえるならばやはり
どこまでも伸びるものは本当はぱんつのひもくらいしかなく
みんなの待っている時間もいつかはよいお土産で
締めくくられるのだろうと思い、
また、ぱんつは大事なので
ひっぱって遊んだりしないようにしようと思うのじゃ。
雪はもうすぐやみそうな気配で
兄じゃたちも寄り道をしていなければ
そろそろ帰りの車の音が聞こえてくるはず。
早く帰ってこないと
どんどん歓迎のときの声がやかましくなると
どうにかして兄じゃに伝えることはできないものか。