ヒカル

『ドラマティック?』
寒くなってきたな。
ちゃんと暖かくして
着ているか?
みたいな言葉を
顔を合わせたら挨拶みたいに
交わすようになってから
もう、しばらく経った気がする。
どう?
今日もちゃんと暖かくしてる?
風邪をひきそうな格好で
だらしなくしていたら
どこにいても駆けつけて
子供たちに着せるのと同じようにして
逃げないように押さえつけてやるんだけど
そこまでは必要ないかな。
まだ秋めいたうららかな昼間なら
ちょっと走ると汗ばむこともあるくらいなのに
あたりが少し暗くなってきたと思ったら
あっという間だから。
こんな私でも少し気を付けてみんなを見ている
このごろだ。
そんなことを言っている自分が
部活の帰りで遅くなることが多くて
みんなに心配をかけているのはわかっている……
いつもごめんね。
首をひっこめて
日に日に冷たく冬の色を増していく風に耐えて
暗い道を車に気を付けて
待っている人の顔を時々思い浮かべながら
家路を急ぐ日課
あんまりみんなのことを考えていたら
木々の暗がりにこのあいだの仮装の
悲鳴を上げるような大きな口や
ねばりつく血糊の垂れるような跡を
見つけてしまうような気がして
確認したらおばけのような形をした布が引っ掛かっていただけだった、
ということもあったりして。
どこかの家のハロウィンから逃げ出してきたか
元の場所に帰りそこねた迷子が残っていたのかもしれない。
みたいなことを話したら
春風は何を勘違いしたのか
だめだめ
それはあぶない、
怖い冬の帰り道は
どうしても頼れる王子様についていてもらわないといけないって
どきどきするみたいに胸を押さえている。
本当におばけがいるなんてお話みたいなことはないのに
冗談も時と場合を選ぶみたいだね。
オマエが帰り道に暗くて寂しいなら
明日の部活の終わる頃に迎えに来てくれたら
これから深まる冬の寒がりな通学路を
一緒に同じ道を歩く予行演習をしてもいいよ!