観月

『憩い』
くんくん──
……
くんくんくん──
うむ、
香りは良いが
誘われて口をつけると
すっと鼻まで通る味わいは
まだ小さな子のよく踊る舌を驚かせ
ミルクと砂糖でくるまれた奥に沈む
いい香りの苦味──
むむ!
やはりコーヒーは
砂糖を入れてもどうも何か
いつ試しても飲みなれない感じがする。
兄じゃも姉じゃたちも落ち着きたいときはこれ、
おいしいお菓子には
コーヒーがいつもなくてはならないと
わくわくして琥珀色を注ぐ。
おまけにこのごろは
夕刻に寒い風がそよそよ吹きはじめる時期、
温かなコーヒーで一息つくのも
よくながめるようになってきたというのに
なぜわらわには
やさしく暖かく
まだコーヒーの神様が姿を見せぬのであろう?
子供には刺激が強いと姉じゃは言う。
兄じゃもそう思うかの?
お茶を点てて振舞ってみせ
甘いあんこにまったり──
とろけて評判も良い
わらわの腕を振るう機会も
甘いもの好きの多い家では
珍しいことではない。
なのになぜ
お抹茶が良くて
おコーヒーが──
わらわには馴染まぬのか?
みながなぐさめてくれるように
大人になれば飲めるとするなら
日ごとに一枚一枚と葉を積もらせる
時が解決する問題なのか──
わかっていてもわらわは
今すぐが良いのじゃ。
ビスケットにチョコレート、
こういうときにコーヒーがいちばんとなごむ
姉じゃのところへ近づいて
今日もひとくちせがむこども。
寒さを感じはじめる日を
おいしく過ごすため
今日もテーブルの向こうから
視線がじっと狙っているぞ。