春風

『あなたに私の毎日を』
すー
すー
うーん……
むにゃむにゃ……
もう食べられない──
はっ!?
ここは──
リビングで
私は──
つい、うたた寝をしていた春風で
目の前にいるのは
王子様。
寝顔を見られてしまいましたね。
うふふ。
ついこの間までは
ぐったりするように暑い真夏の日々だったのに
ここ数日のことでしょう?
いつまでも続きそうなおそろしい暑さにも
涼しい風が忍び込みはじめたのは。
そんなに無理をしていないって思っていたつもりでも
どうしても体力を削っていく夏の温度では
意識しないうちに疲れが体に溜まっていって
こんなに落ち着けるそよ風が吹き始めたとき
そろそろ休みなさいと言うように
眠りは──
春風の午後をすっかり奪っていきます。
家の中の仕事も
草とりも
小さな子達が待っているところへ
遊びに行くのも
できなかったけれど
体が休みを必要としているなら
たまには──
素直に従ったほうがよいのかもしれません。
なにしろ
ついつい遊びすぎてしまう
夏休みでしたから。
夢中になってみんなと過ごして
汗をかいてもくっついたり
手をつないだりしながら
お祭りに行ったりしたもの。
焼きそばだってお好み焼きだって
楽しくて胸がいっぱいで入らないと思っていても
みんなが少しだけ分けてくれるから
楽しくなって
たくさん食べられた気がします。
よく食べたら
よく眠って体を作らないとですから──
それになんだか
はるかはとってもいい夢を見ていたみたいで
内容は少しも覚えていないのに
起きた後でも気分がいいの。
きっと夢の中へまで
王子様を誘ったに違いないわ。
心当たりはありませんか?
本当にどんな夢だったのかまったく手がかりはないけれど
舞踏会にでも一緒に行けたのかな?
王子様といられるならどこでもいいかもしれないな──
暑さは和らいで
楽しかった夏も過ぎていこうとしているけれど
春風の見る夢はこれからも
あなたといられたらなと思うの。
どんな夢でも会えるように
あなただけを考えていられるよう
もう少し──近づいてもいいですか。