『夜の侵略』
暑い日はまだ続き
次の季節を待つ頃だが
灰色の曇天を仰ぎ
夏服の袖にそっと涼しい風を感じると
あの濃密な闇に包まれる夜や
祭りの笛と明かりの灯る道を外れた路地の
静けさが──
音もなく通り過ぎたことを知る。
暑さに寝苦しかった夜も
もうお別れだな。
これからは眠れないのを気温のせいにして
夜更かしをすることも
難しくなってしまいそうだ。
早く──夜長のせいにして
ゆっくりできるようになればいいのにな。
寝床に入って眠気を呼ぶ役目を託した本の
意外な興味深さに目を落としたときの
新聞配達の音で光が差したことを知らせる
明け方の窓の外が──
まだ夜の長さを楽しむことを許してはくれない。
確かに移り行く毎日の景色も
足を止めないままで
ゆっくりと進むことを選んだ。
たとえあわてても
石ころを転がすようには
時の速さを帰ることは出来ないからな。
私たちは変わる季節に合わせて
今はのどかに時を過ごしていると言っていいだろう。
そう、秋はまだ少し先で
豊饒の大地が育て上げた
収穫の恵みを思うまま楽しむ時間も
焦ってもそう早くは訪れない。
それなのに
カレンダーの9月に合わせて
お菓子売り場ではハロウィンの準備がはじまっているし
コンビニではもうおでんを見かけるではないか。
困ったな──
今からもう太りはじめるわけにはいかないだろう。
私だって食べ物がおいしくなる頃を
待っていないとは決して言えないが
いくらなんでも
人間という生き物は傾向として
どうも先を急ぎすぎるのではないだろうか。
春風などもコンビニに寄り道をするだけで
やがて来る寒い風の吹く頃も
王子様を暖めて挙げられる春風でありたい、
きゅんきゅんと
真夏の気配がなお残る温度に関係なく温かそうに頬を染めている。
どこもかしこも気が早いものだな。
今日は夕方からの雨で
家の中で過ごす子たちのために
用意したおやつは──
バニラがやさしいアイスや真っ赤で甘いスイカでもなく
少し肌寒さを感じる雨の日にはおいしい暖かいホットケーキ。
私が焼くのを手伝っあたりは──
まあ、絶妙な焼き加減とはあまり言えないといったところだ。
こうして毎日少しだけ変化を感じている間に
やってくる明日は
また少し涼しくなった風が吹き
ほんのわずかだけ人恋しさを感じるようになっていたりもするのかな?
まだ私たちがぼんやり思い描く
少し先の──未来の話だ。